量子コンピュータや量子通信の分野では、「単一光子」をいかに安定して扱うかが長年の課題とされてきました。
こうした中、米国のアイオワ大学の研究者らが、量子システムに必要な光子をより純粋な状態で取り出すための理論的な方法を開発したと発表しました。
この研究成果は、学術誌Optica Quantumに掲載されており、将来的に量子コンピュータの高速化や通信の安全性向上につながる可能性があるとされています。
量子フォトニクス分野で続いてきた根本的な問題
量子フォトニクスとは、光の最小単位である「光子」を使って情報処理や通信を行う技術分野です。
量子コンピュータや量子暗号では、1個ずつ整然と並んだ単一光子の流れが不可欠とされています。
しかし実際には、光子を生成する過程で不要な光が混ざることが多く、理想的な状態を保つことが難しいという問題がありました。
この不純物が、量子計算の精度や通信の信頼性を下げる要因になってきました。
レーザーから生じる「不要な光子」に着目
研究チームは、レーザーを使って原子を刺激する際に発生する「迷光」に注目しました。
迷光とは、本来必要な光とは別に、意図せず発生してしまう不要な光のことです。
大学院生のマシュー・ネルソン氏は、この不要な光子が、干渉しているレーザー光と非常によく似た波長や波形を持っていることを突き止めました。
一見すると厄介な存在である迷光が、実は制御可能な性質を持っていたのです。
破壊的干渉を利用した光子の「精製」
研究の核心は、「破壊的干渉」という現象の利用です。
破壊的干渉とは、性質の似た波同士が重なることで互いを打ち消し合う現象を指します。
研究者たちは、レーザーから生じる不要な光子と、原子が同時に放出してしまう余分な光子を、意図的に干渉させることで打ち消せることを理論的に示しました。
その結果、量子システムにとって理想的な、より純粋な単一光子の流れが得られるとしています。
二つの長年の障害を同時に解消
この手法が画期的とされる理由は、二つの問題を同時に解決できる点にあります。
一つ目は、レーザー散乱によって発生する余分な光子です。
二つ目は、原子が一度に複数の光子を放出してしまう「多光子放出」と呼ばれる現象です。
これは、単一光子を前提とする量子演算にとって大きな妨げとなってきました。
研究チームは、これまで「邪魔者」と考えられてきたレーザー散乱を逆に利用することで、不要な多光子放出を相殺できる可能性を示しました。
レーザー制御による純度の高い光子ストリーム
研究者たちは、レーザービームが原子とどのように相互作用するかを詳細に検討しました。
具体的には、レーザーの角度、形状、配置などを精密に制御することが重要だとしています。
こうした条件を調整することで、原子が余分な光子を放出する確率を下げ、必要な光子だけを取り出せると理論的に示されました。
結果として、量子システムに適した非常に純度の高い光子ストリームが得られるとされています。
量子コンピューティングと通信安全性への影響
単一光子源は、光を量子ビットとして利用する「フォトニック量子コンピューティング」の中核技術です。
電子を使う従来型コンピュータよりも高速かつ効率的な計算が可能になると期待されています。
また、量子暗号では、単一光子による通信は盗聴が極めて困難です。
秩序だった光子の流れは、安全性の高い通信ネットワークの構築にも不可欠です。
現在、複数のスタートアップ企業が光ベースの量子技術に投資していますが、信頼性の高い単一光子源の不足が実用化の壁となってきました。
研究資金と今後の展望
この研究は理論研究として進められ、11月3日にオンラインで公開されました。
資金は、米国国防総省の国防次官(研究・工学担当)室から提供されています。
さらに、アイオワ大学研究担当副学長室も、P3プログラムを通じてシード助成金を支援しました。
研究チームは、今後この理論モデルを検証するための実験室実験を計画しています。
理論が実証されれば、量子技術の実用化に向けた大きな前進となる可能性があります。
参考にした公式情報源
Phys.org
Optica Quantum 掲載論文
University of Iowa 公式発表
ScienceDaily

