
南極の古い氷に含まれる鉄60の痕跡から、太陽系が局所星間雲の中を通過してきた可能性が示されました。
この研究が重要なのは、南極の氷が地球の気候記録だけでなく、太陽系の周囲にあった宇宙環境の変化まで残している可能性を示したためです。
そのため、氷床コアは地球科学だけでなく、宇宙の歴史をたどる手がかりとしても注目を集めています。
さらに今回の研究は、超新星由来の粒子が地球近傍の星間環境にどう残り、時間とともにどう変わったかを読み解く材料になります。
鉄60とは何か 超新星が残した放射性同位体
鉄60は、大質量星の爆発である超新星で生成される放射性同位体です。
放射性同位体とは、時間の経過とともに崩壊する性質を持つ原子のことです。
一方で、鉄60は地球上で自然に意味のある量が作られることはありません。
つまり、南極の氷や雪から鉄60が見つかれば、それは宇宙由来の物質が地球に降り積もった証拠と考えられます。
こうした中で研究者は、南極の氷に残る鉄60を調べることで、宇宙から届いた痕跡を読み解こうとしました。
実際に、この発想は過去の研究ともつながっています。
EPICA氷床コア約295キログラムを分析
研究チームは、EPICAの氷床コア約295kgを処理しました。
EPICAは南極の深い氷を掘り出して調べる国際的な研究計画で、過去の環境を探るために使われます。
また今回の分析対象は、40,000年から81,000年前の氷でした。
研究者は、この古い氷に含まれる鉄60を調べました。
しかし、鉄60は極めて微量です。
そのため、通常の分析ではなく、非常に高い感度を持つ測定が必要でした。
氷の層ごとに違った鉄60濃度
解析の結果、鉄60の濃度は古い氷の層ごとに一様ではなく、時代による変化が見られました。
この点が、今回の研究で特に重要です。
なぜなら、単に鉄60が存在しただけでなく、その量が時代ごとに変動していたからです。
研究者はこの変化を、太陽系が局所星間雲の薄い領域から、より密な領域へ移ってきた反映とみています。
局所星間雲とは、太陽系が現在通過していると考えられる星間ガスや塵の集まりです。
つまり、南極の氷は地球の気候だけでなく、太陽系が銀河内でたどった環境の変化も記録している可能性があります。
鉄60検出を支えた精密分析
鉄60はごく微量しか存在しません。
そのため、検出には非常に高い感度の装置が必要でした。
ここが、この研究の大きな技術的ハードルでした。
研究では、まず氷を溶かして不純物を集めました。
さらに、その中から原子レベルに近い微量の鉄60を探し出す手法が使われました。
こうした中で、研究チームは氷床コアから星間環境の変化を読み取る道筋を示しました。
この精密分析によって、数万年スケールの星間環境の変化を氷床コアから読み取れることが示されました。
一方で、この分野では試料の扱いと測定精度が結果を大きく左右します。
そのため、今後の研究でも同様の高精度分析が重要になります。
2019年研究から広がった観測の時間幅
このテーマは、2019年に南極の新しい雪から鉄60が見つかった研究の延長線上にあります。
当時の成果は、宇宙由来の鉄60が南極で検出できることを示しました。
これは、南極の雪や氷が宇宙からの物質を記録している可能性を実証した重要な結果でした。
今回の研究は、その観測対象を古い氷に広げた点に特徴があります。
また、単発の検出ではなく、より長い時間変化を追ったことにも意味があります。
実際に、40,000年から81,000年前までさかのぼることで、鉄60の変動を時間軸の中で見ることが可能になりました。
したがって、今回の成果は新発見である一方、既存研究を置き換えるものではありません。
むしろ、2019年の成果を土台にして観測の時間幅を大きく広げた研究と整理するのが正確です。
つまり、鉄60研究は点の観測から、時間の流れを追う段階へ進みつつあります。
太陽系の通過史をさらに古い氷で追う
研究チームは、さらに古い氷を調べることで、太陽系が局所星間雲に入る前後の環境差をより詳しく復元しようとしています。
この先の解析が進めば、太陽系がどのような星間物質の中を移動してきたのかを、より精密にたどれる可能性があります。
そのため、南極の氷の価値は今後さらに高まるとみられます。
南極の氷は、単なる地球の記録ではありません。
宇宙史の断片を閉じ込めたアーカイブとしても注目されています。
さらに鉄60の分析が進めば、地球と宇宙をつなぐ新たな記録媒体としての役割が、いっそう明確になる可能性があります。
南極の氷が持つ二つの意味
南極の氷はこれまで、主に気候変動の記録として研究されてきました。
しかし今回の結果は、南極の氷が宇宙環境の変化まで保存している可能性を示しました。
一方で、その読み解きには極めて高度な分析技術が欠かせません。
それでも、鉄60という明確な宇宙起源の指標が見つかった意味は大きいです。
つまり、南極の氷は地球科学の試料であるだけでなく、太陽系の移動史を映す記録層でもあるかもしれません。
こうした中で、鉄60を手がかりにした研究は、今後の宇宙史研究の重要な柱の一つになりそうです。
ソース
ScienceDaily
Australian National University
Physical Review Letters
ESA

