外国人投資の可視化と経済安全保障を重視した政策転換
日本政府は、不動産取引の登記時に、すべての不動産購入者に対して国籍の開示を義務付ける方針を明らかにしました。
この制度は、日本人を含むすべての購入者が対象となり、物価上昇や国家安全保障への懸念が高まる中で、外国人による不動産取得の実態を正確に把握することを目的としています。
不動産は単なる個人資産ではなく、国の土地利用や安全保障とも密接に関わる存在です。今回の措置は、日本の不動産政策が新たな段階に入ったことを示しています。
国籍開示はいつから始まるのか
登記時に求められる新たな手続き
平口洋法務大臣は、不動産購入時の国籍開示について、2026年度から制度を開始すると説明しました。
具体的には、2027年3月で終了する2026年度の期間中から、日本国民を含むすべての購入者が、所有権を登記する際にパスポートや住民票などの公的書類を提出する必要があります。
これまで日本の不動産登記制度では、購入者の国籍を把握する仕組みがなく、外国人による取得状況を網羅的に確認することが困難でした。今回の制度変更は、その空白を埋めるものです。
政府は、この規制案について、今月末からパブリックコメントを募集し、国民の意見を踏まえたうえで制度設計を進めるとしています。
国籍情報は公開されるのか
プライバシーへの配慮と政府内共有
国籍情報は、不動産登記データベースを通じて政府内部で管理され、関係省庁間で共有される予定です。ただし、プライバシー保護の観点から、一般に公開されることはありません。
たとえるなら、車のナンバー情報が警察や行政内部では把握されているものの、誰でも自由に閲覧できるわけではないのと同じ考え方です。
あくまで行政が状況を把握し、必要な対応を取るための情報として扱われます。
背景にある安全保障上の懸念
重要施設周辺で相次ぐ外国人購入
今回の制度導入の大きな背景には、政府が公表した調査結果があります。
それによると、2024年度に外国人が購入した不動産のうち、重要な安全保障施設や離島周辺に位置する物件は3,498件に上りました。
さらに、そのほぼ半数が中国による購入だったことが判明しています。
この数字は、日本の土地利用や安全保障に対する懸念を現実的なものとして示しました。
経済安全保障担当大臣の小野田紀美氏は記者会見で、「状況を着実に調査し、当該不動産の機能を阻害する行為を阻止するため、あらゆる対策を講じる」と述べ、政府として強い危機感を持って対応する姿勢を示しています。
東京都心で拡大する海外購入者の存在感
今回の発表は、首都圏の不動産市場の変化とも深く関係しています。
2025年前半、海外在住の購入者が東京都23区で購入した新築マンションは全体の3%を占め、2024年通年の1.6%から倍増しました。
特に東京都心6区では、その割合が3.2%から7.5%へと急上昇しています。
購入者の国籍を見ると、台湾が最も多く、中国、シンガポール、香港、英国が続いています。
これは、東京の不動産が「住むための場所」だけでなく、「国際的な投資対象」として見られている現状を示しています。
不動産価格高騰と投機的取引への警戒
東京都心の分譲マンション価格は、すでに過去最高水準に達しています。
2025年には、都内23区の新築マンション平均価格が1億1000万円を超えました。
金子恭之国土交通大臣は、「実需に基づかない投機的取引は望ましくない」と認めています。しかし、これまで政府は購入者の国籍に関する包括的なデータを持っておらず、実態把握が十分とは言えませんでした。
今回の国籍開示義務化は、こうした投機的動きに歯止めをかける狙いもあります。
より広範な規制へ
財務省と経済安保政策の動き
政府の対応は、不動産登記制度にとどまりません。
財務省は、外国為替及び外国貿易法に基づく報告要件を拡大し、これまで対象外だった海外居住者による居住用不動産の購入も報告対象に含めると発表しました。
さらに、森林地や国家安全保障上重要な不動産を取得する企業に対しては、2026年4月から登記申請書に会社代表者の国籍を記載することが義務付けられます。
これらの取り組みは、高市早苗首相が就任以降、経済安全保障を政策の柱に据えている姿勢を反映したものです。
海外の規制強化と歩調を合わせる日本
日本の今回の対応は、国際的に見ても特異なものではありません。
カナダは2023年に外国人による居住用不動産の購入を原則禁止しました。
また、オーストラリアやシンガポールでも、外国人購入者に対して高い税率や厳しい条件を課すなど、さまざまな制限が導入されています。
日本もまた、グローバルな不動産市場の中で、自国の安全と国民生活を守るための調整を迫られていると言えます。
国籍開示義務化が意味するもの
今回の制度は、外国人排除を目的としたものではありません。
誰が、どこで、どのように不動産を取得しているのかを正確に把握し、問題があれば適切に対処できる体制を整えることが主眼です。
不動産は一度取得されると、簡単には元に戻せません。
だからこそ、事後対応ではなく、事前に実態を把握する仕組みが重要になります。
日本の不動産市場と安全保障政策は、いま大きな転換点を迎えています。
ソース
ストレーツ・タイムズ
共同通信 英語版
ジャパンタイムズ
国内外政府発表資料
各国不動産規制に関する公開情報

