安楽死ドナーから世界初の顔面移植 バルセロナ病院が実施した前例なき医療手術

スペイン・バルセロナのバル・デブロン大学病院は2月2日、医療的安楽死を選択したドナーから提供された顔面組織を用いた、世界初の顔面移植手術を実施したと発表しました。
この手術を受けたのは、カルメさんと呼ばれる女性で、重度の顔面組織壊死により日常生活そのものが困難な状態にありました。

これまで顔面移植は極めて限られた条件下でしか行われてきませんでしたが、今回の事例は、安楽死ドナーからの顔面提供という点で、世界的にも前例のない医療的挑戦となります。

虫刺されが引き起こした深刻な顔面壊死

カルメさんは2024年7月、カナリア諸島で休暇を過ごしていた際、虫刺されをきっかけとする細菌感染を発症しました。
感染は急速に進行し、顔の皮膚や筋肉などの組織が壊死する深刻な状態に陥りました。

その結果、呼吸、食事、会話、視力といった生命と生活に直結する機能が著しく損なわれ、従来の再建手術では回復が見込めない状況となりました。

記者会見でカルメさんは
「自宅で鏡を見ると、ようやく自分自身に近づいてきていると感じます」
と語り、回復が順調に進んでいることを明らかにしています。

約100人が関わった24時間に及ぶ大手術

この顔面移植手術は2025年秋に実施され、外科医、麻酔科医、精神科医、免疫学者、マイクロサージャリーの専門家など、約100人の医療従事者が関与しました。
手術時間は最大で24時間に及びました。

移植されたのは、皮膚、筋肉、神経、脂肪、骨を含む顔面中央部の複合組織で、外見だけでなく機能の回復を重視した高度な手術でした。

手術を主導した形成外科・熱傷ユニット長のジョアン・ペレ・バレット医師は、2010年に同病院で世界初の顔面全体移植手術を執刀した実績を持っています。

3D技術が支えたミリ単位の精密計画

病院では3Dプリンティング技術を活用し、ドナーとレシピエント双方の顔のデジタルモデルを作成しました。
これにより、骨や神経の位置をミリ単位で把握し、極めて精密な手術計画を立てることが可能となりました。

顔面移植では、見た目の再建だけでなく、神経の接続による表情や感覚の回復が重要です。
3D技術は、こうした複雑な工程を支える中核的な役割を果たしました。

安楽死と臓器・組織提供という重い決断

スペインでは2021年6月に安楽死が合法化されています。
今回のドナーとなった中年女性は、安楽死を選択する以前から、顔を含む臓器や組織の提供に同意する意思を文書で明確に示していました

この事前同意があったことで、医療チームは倫理的・医学的な調整を慎重に進め、複雑な移植手術の準備を整えることができました。

移植コーディネーターのエリザベス・ナバス氏は
「人生の終わりを選んだ人が、最後の願いとして見ず知らずの他者にこれほど大きな希望を託した」
と述べ、その判断を称えています。

顔面移植医療が切り開く新たな可能性

顔面移植は世界的にも極めて希少な医療行為で、過去20年間に実施された症例は約54例にとどまります。
バル・デブロン病院は、スペイン国内で行われた6例の顔面移植のうち3例を担当しており、この分野を牽引する存在となっています。

今回の事例は、安楽死と高度移植医療が交差する新たな医療モデルを示しており、今後の医療倫理や制度設計にも影響を与える可能性があります。

世界をリードするスペインの移植医療体制

スペインは34年連続で臓器移植数が世界最多という実績を持っています。
2025年には約6,300件の臓器移植が実施され、そのうち226人が安楽死補助手続き後に臓器提供を行ったとされています。

政府統計によれば、2024年に安楽死補助を受けた人は426人に上り、制度と医療体制が密接に連携していることが分かります。

カルメさんは現在、集中治療室で1か月を過ごした後、表情、発話、動きを回復させるための顔面リハビリテーションに取り組んでいます。
彼女にとって、この移植手術は「普通の生活を取り戻すための唯一の選択肢」でした。

ソース

Europa Press News
Euronews
EU Weekly News
Getty Images
Wikipedia
Ground News
The Spain Post

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