政府が5月にも、国家備蓄石油の約20日分を追加放出する方向で検討していることが、4月9日に関係者への取材で明らかになりました。
米国とイランの停戦合意後も、ホルムズ海峡の安全な航行再開の見通しは立っていません。
そのため政府は、供給の安定確保を最優先に第2弾の放出に踏み切る構えです。
今回の動きは、単なる備蓄の放出ではありません。
日本のエネルギー安全保障が、次の段階に入ったことを示す判断です。
つまり、停戦が成立しても供給不安は解消していないということです。
また、今回の追加放出は、今後の石油政策を占う重要な判断になります。
一方で、政府は代替調達も進めています。
こうした中で、備蓄放出と代替調達をどう組み合わせるかが大きな焦点になります。
ホルムズ海峡封鎖が招いた供給危機
2026年2月末、米国とイスラエルによるイラン攻撃を契機に、ホルムズ海峡は事実上の封鎖状態に陥りました。
日本の原油輸入の9割超がこの海峡を通るため、供給途絶の危機が一気に現実味を帯びました。
そのため、日本経済全体に影響が及ぶ懸念が強まりました。
3月16日には、ドバイ原油が1バレル153.25ドルと史上最高値を記録しました。
これは国際エネルギー市場の強い動揺を示す数字です。
また、原油価格の急騰は、国内の燃料価格や物流コストにも波及しかねない状況でした。
トランプ米大統領は4月7日、イランがホルムズ海峡を再開することを条件に、2週間の停戦合意を発表しました。
しかし、経済産業省はその後も、「安全な航行再開は不透明」との判断を維持しました。
そのため政府は、追加放出の検討に踏み込みました。
史上最大となった第1弾放出の全体像
日本政府は3月16日、民間備蓄義務量を70日分から55日分へ15日分引き下げました。
さらに、国家備蓄30日分と産油国共同備蓄分を合わせ、約50日分の第1弾放出を開始しました。
これは日本の石油備蓄政策の中でも、極めて大きな対応です。
放出は全国11カ所の石油基地から行い、4月末までに完了する予定です。
売却先は、ENEOS、出光興産、コスモ石油、太陽石油の元売り4社です。
また、売却総額は約5,400億円に上ります。
ここでいう元売りとは、原油を精製し、ガソリンや軽油などの石油製品として供給する中核企業です。
つまり、備蓄を市場へ流す際の実務を担う重要な事業者です。
そのため、第1弾放出は量だけでなく、供給網の維持という面でも大きな意味を持ちました。
IEA協調放出でも日本は大きな役割を担った
第1弾放出は国内対応にとどまりませんでした。
国際エネルギー機関、つまりIEAの協調放出でも、日本は大きな役割を担いました。
IEAは主要国がエネルギー危機時に連携する国際枠組みです。
日本は7,980万バレルを拠出しました。
これは米国の1億7,220万バレルに次ぐ第2位の規模です。
実際に、日本は国際協調の中核の一角を占めました。
IEA全体の協調放出量は、過去最大の約4億バレルに達しました。
さらに、日米2カ国で全体の約6割を占めました。
一方で、それだけ世界全体の需給逼迫が深刻だったことも示しています。
なぜ第2弾の追加放出が必要なのか
経済産業省の細川成己統括調整官はロイターに対し、次のように述べました。
「この状況が変わらなければどこかで足りなくなる。変わらなければ出すということになる」。
この発言は、追加放出の必要性を政府が明確に認めたものです。
また、石油業界側も5月の追加放出を強く要望していました。
つまり、政府判断だけでなく、現場の供給責任を担う業界側も危機感を共有していたことになります。
そのため、第2弾の検討は政策判断と現場の要請が重なった結果です。
一方で、停戦合意がある以上、放出を急ぎすぎるべきではないという見方もあり得ます。
しかし、航行の安全が確認できない以上、政府は楽観論を採りませんでした。
こうした中で、供給途絶を防ぐための先手対応が重視されました。
備蓄残高と追加放出後のインパクト
4月3日時点での残存備蓄は、国家備蓄が146日分、民間備蓄が80日分です。
合計すると、226日分となります。
これは依然として大きな水準ですが、無制限に使えるわけではありません。
今回検討されている20日分の追加放出が実施されれば、国家備蓄からの総放出量は、第1弾の30日分と合わせて50日分に達します。
つまり、国家備蓄の活用が短期間で大きく進むことになります。
また、この数字は危機対応が一時的措置では終わらない可能性を示しています。
備蓄は非常時に使うための資源です。
しかし、使えば減ります。
そのため、追加放出は安心材料である一方で、今後の長期戦に備える難しさも同時に浮き彫りにします。
高市政権が進める代替調達の中身
高市早苗首相は4月7日、「ホルムズ海峡を通らないルートでの調達に最大限注力している」と説明しました。
さらに、「4月に前年同月比20%以上の増加、5月には半数以上の代替調達が可能になった」と述べました。
これは、政府が備蓄放出だけに頼らない方針を示した発言です。
ここでいう代替調達とは、ホルムズ海峡を通らない原油の調達を指します。
つまり、中東依存を一時的に補うために、別ルートや別地域から原油を確保する対応です。
そのため、物流、契約、精製の各段階で追加の調整が必要になります。
首相はこうした進展を踏まえ、「年を越えて石油を確保できるめどが付いた」との認識も示しました。
一方で、その見通しはあくまで代替調達が計画通り進むことが前提です。
また、航路や国際情勢の変化次第では、再び見直しを迫られる可能性も残ります。
G7とアジアを視野に入れた外交努力
政府はG7との協調放出を進めています。
さらに、アジア諸国との石油製品の相互融通についても協議を続けています。
これは、単一の手段に依存しない多層的な供給確保策です。
相互融通とは、必要なときに国同士で石油製品を融通し合う仕組みです。
難しく見えますが、要するに不足時に備えた国際的な助け合いです。
こうした枠組みは、危機の長期化に備える上で重要です。
しかし、国際協力には各国の国内事情も絡みます。
そのため、協議が進んでも、実際の供給量や時期がすぐ確定するとは限りません。
一方で、外交努力を並行して進めること自体が、供給不安を和らげる意味を持ちます。
5月に向けた今後のスケジュール
現時点での主なスケジュールと論点は、次のとおりです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 第1弾放出完了 | 4月末(国家備蓄30日分) |
| 民間備蓄義務引き下げ延長 | 4月15日の期限を延長する方向で検討中 |
| 第2弾放出(検討中) | 国家備蓄20日分、5月にも実施 |
| 現在の総備蓄残 | 国家備蓄146日分+民間備蓄80日分=226日分 |
この表から分かる通り、政策判断の節目は4月中旬から5月に集中しています。
つまり、第1弾の完了を待つだけではなく、次の手を同時に決める局面です。
また、備蓄ルールそのものの延長判断も重要になります。
焦点となる3つのポイント
今後の焦点は3点です。
①ホルムズ海峡の航行正常化の時期、②民間備蓄義務引き下げの延長期間、③IEAによる第2次協調放出への参加規模です。
これらはそれぞれ別の論点に見えて、実際には密接に結び付いています。
まず、航行正常化の時期が見えなければ、追加放出の必要性は高まります。
一方で、民間備蓄義務の引き下げをどこまで続けるかは、国内供給体制に直結します。
さらに、IEAの第2次協調放出にどの程度参加するかは、国際協調と国内防衛のバランスを問う判断になります。
政府は中東情勢の動向を注視しながら、追加放出の規模と時期について5月を目処に実施する方向で検討を進めています。
そのため、5月は日本の石油国家備蓄政策にとって大きな分岐点になります。
実際に、今後の判断は国内市場にも国際市場にも影響を及ぼします。
日本のエネルギー安全保障が迎える正念場
史上最大規模となった第1弾の備蓄放出から、まだわずか1カ月です。
それにもかかわらず、日本政府は5月の第2弾放出という異例の連続対応を迫られています。
これは危機がなお継続していることを明確に示します。
米イラン停戦後も、ホルムズ海峡の先行きは見えていません。
そのため、日本は備蓄放出と代替調達を同時に進める必要があります。
いわば、「二正面作戦」で供給不安に対応している状況です。
この二正面作戦が、日本のエネルギー安全保障の試金石になります。
しかし、備蓄にも限りがあり、代替調達にも不確定要素があります。
そのため、5月の判断は、危機管理能力そのものを問う場面になりそうです。
ソース
沖縄タイムス
大和総研
Arab News Japan
ロイター
毎日新聞
Yahoo!ニュース

