博物館に125年間眠っていた恐竜化石 ― 「ニュートンサウルス・カンブレンシス」の正体がついに判明

125年間の沈黙を破った歴史的発見

ウェールズの博物館に収蔵されてから125年間もその正体が不明のまま保管されていた化石が、ついに現代の技術によって解き明かされました。

研究チームを率いたのはブリストル大学の古生物学者たち。彼らは高度なデジタル再構築技術を駆使し、2億200万年前(三畳紀)の肉食恐竜を新種として正式に認定しました。その名は**「Newtonsaurus cambrensis(ニュートンサウルス・カンブレンシス)」**。

この名前には二つの意味が込められています。ひとつは、1899年にこの化石を最初に研究したヴィクトリア朝時代の古生物学者エドウィン・タリー・ニュートンへの敬意。そしてもうひとつは、発見地である**ウェールズ(Cambria)**を示すラテン語由来の「cambrensis」です。


化石の発見と分類の変遷

問題の化石は、1899年にウェールズ・ブリジェンド近郊ストーミーダウンで採掘されました。顎の骨の一部が岩石中に残された「天然の型」として保存されていたのです。

当初、この標本は「Zanclodon cambrensis」と名付けられました。しかし「Zanclodon」という属名は、当時は広範な爬虫類をまとめて指すために使われており、現在では科学的に放棄されています。そのため、この化石は**「恐竜なのかすら曖昧な存在」**として、長らく分類不能のまま取り残されてきました。


デジタル技術が恐竜の姿を甦らせる

今回のブレイクスルーをもたらしたのは、フォトグラメトリー技術です。これは、写真をもとに立体的な3Dモデルを作成する最新手法で、古生物学では近年急速に利用が広がっています。

このプロジェクトに中心的に関わったのは古生物学の学生オウェイン・エヴァンス氏。彼は標本をデジタルスキャンし、**「型のネガ」**を反転して3D構築することで、失われた顎骨の詳細な形状を再現しました。

「この標本は多くの論文で取り上げられてきましたが、恐竜かどうかすら断定できなかったのです。デジタル再構築によってようやく、肉食性の獣脚類だと分かりました」
― オウェイン・エヴァンス氏


驚くべきサイズ ― 異例の大型三畳紀獣脚類

研究によって判明したのは、ニュートンサウルスが当時としては異例の巨大捕食者だったという事実です。

  • 保存されていた顎骨は約28cm
  • 本来はその倍以上の約60cmの顎を持っていたと推定
  • 体長は5〜7メートルに達した可能性が高い

三畳紀の獣脚類(ティラノサウルスやヴェロキラプトルの祖先にあたる肉食恐竜)は、通常は2〜3メートル程度と小型が多かったため、このサイズは非常に例外的です。

さらにデジタル復元では、歯に見られる**鋸歯状のエッジ(肉を切り裂くための構造)**が鮮明に確認され、肉食恐竜であることが裏付けられました。進化的な位置づけとしては、コエロフィソイデア(初期の小型獣脚類)とアヴェロストラ(後の大型獣脚類)の分岐点に近い存在と考えられています。


ウェールズが恐竜研究の新たな舞台に

今回の研究は、ウェールズが恐竜研究における注目スポットであることを改めて示しました。

ウェールズ国立博物館のキュレーター、シンディ・ハウエルズ氏は次のように強調します。

「歴史的標本は古生物学にとって非常に重要です。何十年も博物館の収蔵庫に眠っていても、最新技術によって新しい知見が得られるのです。」

さらに彼女は、ウェールズ各地に広がる三畳紀層の重要性に触れ、

「世界的にも稀少な三畳紀層がウェールズには複数存在しています。今後もまだ未知の恐竜が発見される可能性は十分にあります」
と述べました。

研究によると、後期三畳紀時代のウェールズは、古代の海に隣接する熱帯低地で、多様な恐竜が暮らす豊かな生態系を形成していたと考えられています。


発見の意義 ― 科学と歴史をつなぐ架け橋

ニュートンサウルスの発見は、単なる新種の命名にとどまらず、いくつもの意義を持っています。

  1. 科学的意義
    • 三畳紀恐竜のサイズ多様性を広げ、進化史に新たな視点を加える。
  2. 歴史的意義
    • ヴィクトリア朝時代の研究者ニュートンの名を現代に刻み直す。
  3. 地域的意義
    • ウェールズを恐竜研究の重要拠点として国際的に位置づける。

まとめ

125年間も「正体不明の化石」として眠っていた標本が、最新の技術と研究者たちの情熱によって蘇りました。ニュートンサウルス・カンブレンシスは、三畳紀の恐竜の進化史を語ると同時に、科学と歴史をつなぐ象徴的な存在です。

博物館の収蔵庫に眠る一片の化石が、未来の研究に新たな光をもたらす――その事実は、恐竜時代のロマンと科学探究の果てしない可能性を改めて私たちに教えてくれます。

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