― 沖縄・奄美の墓地から持ち出された「清野コレクション」 返還手続きガイドラインも公開
京都大学が初めて明らかにした「466体の遺骨」
京都大学は11月10日までに、旧・京都帝国大学時代の研究者によって昭和初期に沖縄本島および奄美群島から研究目的で収集された人骨466体を現在も保管していることを初めて公表しました。
この発表は、同大学の公式ウェブサイトに掲載された「遺骨返還手続きガイドライン」とともに行われ、返還を希望する自治体や遺族からの申請を正式に受け付ける方針を示したものです。
京都大学がこの規模の人骨コレクションを具体的な数値と地名付きで公開するのは初めてであり、長年議論されてきた「清野コレクション」問題に新たな局面が訪れたといえます。
🧬 公表リストの内容 ― 奄美360体、沖縄106体
今回公表されたリストには、遺骨の収集時期・採取地名・現在の地名・個体数が詳細に記載されています。
また、可能な範囲で性別・年齢区分も明記され、「成人女性」「小児(性別不明)」といった分類がなされています。
地域別の内訳は以下の通りです。
| 地域 | 推定個体数 | 主な採取地 |
|---|---|---|
| 鹿児島県(奄美大島・徳之島・喜界島など) | 約360体 | 各島の墓地・遺跡 |
| 沖縄県(本島北部・今帰仁など) | 約106体 | 沖縄本島北部地域の墓地 |
京都大学は、現時点で個人を特定できる遺骨は存在しないと説明しています。
ただし、記録には詳細なラベルや収集時の情報が残されており、今後の調査次第では出自が特定される可能性もあります。
🏺「清野コレクション」とは ― 帝国大学時代の学術的収集
これらの遺骨は、京都帝国大学医学部の清野謙次(きよの・けんじ)教授の研究室が1920年代から1930年代にかけて組織的に収集した人骨群で、後に「清野コレクション」と呼ばれるようになりました。
清野教授は、当時の日本国内外で「人類学」「形質学」「民族学」が急速に発展していた時期に活動しており、日本人の身体的特徴や民族的起源を科学的に分類する研究を主導していました。
彼の指導のもと、金関丈夫助教授(三重大名誉教授)や三宅宗悦講師らが、現地で墓地を発掘し、遺骨を持ち帰ったとされています。
このような行為は、当時は「学術調査」として容認されていましたが、被植民地・被支配地域の文化財や人骨を持ち出すことに対する倫理的配慮は極めて乏しく、現代の視点では植民地主義的な収集行為として強い批判が寄せられています。
📜 返還の動きと京大の対応
京都大学は2024年5月、沖縄県今帰仁村教育委員会に対し、
26体以上の遺骨を「移管」する手続きを実施しています。
ただし、今回公表された106体の沖縄県由来の遺骨は、これとは別に大学内で保管されているものです。
この公表は、現在進行中の「琉球遺骨返還請求訴訟」の流れと関係しています。
訴訟では、琉球民族の代表や遺族側が「不法に持ち出された遺骨の返還と謝罪」を求めており、
京大側は「所有権は大学にある」との立場を崩していません。
⚖️ 返還ガイドラインの内容と批判
京都大学が公表した「遺骨返還手続きガイドライン」では、
返還申請に関する手続きや申請対象の明確化が示されています。
しかし、内容には次のような条件が含まれています。
「返還された遺骨は、元の墓地への再埋葬を行わないことを条件とする。」
この一文が大きな波紋を呼びました。
琉球遺骨返還訴訟の原告団や一部研究者からは、
「遺族や原告への説明も謝罪もなく、大学主導で処理を進める姿勢は植民地主義的」との批判が上がっています。
🗣️ 専門家・関係者のコメント
龍谷大学の松島泰勝教授は、毎日新聞の取材に対し次のように述べています。
「植民地主義や人種差別への反省から、
世界の大学や博物館では自発的に調査と返還が進んでいる。
それに対して京都大学の対応は極めて消極的で、
反省や謝罪の姿勢が見られない。」
同様に、沖縄の関係者からも「大学の自己保身的対応だ」との指摘が相次いでいます。
一方で、大学側は「科学的・倫理的基準に基づいて慎重に対応する」としており、
学術的資料としての保存価値を理由に即時返還には応じない方針を取っています。
🌏 世界的潮流:遺骨返還を進める学術界
国際的には、過去の植民地主義的研究に対する反省が進んでおり、
多くの大学・博物館で遺骨や文化財の本国返還・再埋葬プロジェクトが進行しています。
- イギリスのケンブリッジ大学やオックスフォード大学は、
植民地時代に持ち帰られた人骨をアフリカ諸国へ返還。 - フランス国立自然史博物館では、アルジェリアの戦没者の遺骨を正式返還。
- ドイツのベルリン民族学博物館は、ナミビアの人骨返還を完了。
これらの動きは「学術機関による植民地主義の清算」と位置づけられ、
京都大学を含む日本の大学にも同様の取り組みが求められています。
🔍 今後の焦点 ― 「謝罪」と「再埋葬」をどう扱うか
今回の公表は「透明化への一歩」と評価される一方で、
実際に遺骨がどのように扱われ、どのような形で返還されるかは依然として不透明です。
多くの遺骨が100年以上前に収集され、
出自や遺族の特定が難しいケースが多いため、
法的・倫理的・宗教的な調整が避けられません。
また、「再埋葬禁止」という条件をめぐって、
宗教的観点からも激しい議論が続くことが予想されます。
🕊️ 終わりに ― 学問と人間尊重のはざまで
京都大学が抱える「清野コレクション」問題は、
単なる学術史上の問題ではなく、
「学問の自由と人間の尊厳の調和」を問う現代的なテーマです。
大学が自らの歴史と向き合い、
倫理的な再評価と対話を進められるかどうか。
それは、学術機関としての信頼性を回復するための重要な試金石となるでしょう。
📰 出典・参考
- 京都新聞(2025年11月10日)
- 東京新聞
- 京都大学公式発表(遺骨返還手続きガイドライン)
- 毎日新聞取材コメント(松島泰勝教授)
- Okinawa Times / Kyodo News

