― 無痛で危険な血糖異常を判定できる可能性も ―**
近年、糖尿病患者が安全かつ快適に血糖値を管理できるよう、世界中の研究者たちが「針を使わない血糖測定技術」の開発に挑戦しています。そんな中、超音波技術と人工知能(AI)を組み合わせた新システムが実験室で成果を上げ、無痛の血糖モニタリング実現にまた一歩近づいたことが報告されました。
今回の研究は npj Acoustics(Natureポートフォリオ) に掲載されており、これまで数々の障壁があった非侵襲血糖測定の分野で注目すべき進展を示しています。
■ 高周波超音波 × AI が血糖値の違いを識別
研究チームは 80MHzの超音波トランスデューサー(非常に高い周波数の超音波を発する装置)と、
深層学習(Deep Learning)モデルを組み合わせることで、
血液中のグルコース濃度の違いを検出することに成功しました。
今回テストされたAIモデルは以下の4種類です:
- VGGNet
- InceptionNet
- ResNet
- EfficientNet
これらのモデルに、0〜250mg/dLまで幅のある血液サンプルの超音波信号を学習させたところ、
6段階の細かな血糖レベル区分の識別では65〜68%の精度を達成。
特に InceptionNet が 67.9% と最も高い精度となりました。
一見すると控えめな精度ですが、研究チームはここからさらに踏み込み、
「臨床的に特に重要な部分」に着目します。
■ 危険な血糖値異常(低血糖/高血糖)の区別は “90%超” と高精度
6段階の細分化では精度が落ちた一方で、研究チームが分類をシンプルにし、
● 150mg/dL
を境に 低血糖(150mg/dL未満) と 高血糖(150mg/dL以上) に分ける
“バイナリー分類” へ変更すると結果は劇的に改善しました。
- InceptionNet:90%以上の精度
- ResNet:90%以上の精度
つまり、現時点では細かい血糖値の「数値の特定」は難しいものの、
危険な血糖値状態かどうかの判定には非常に有望な性能 が示されたのです。
これは現場での利用価値が高く、
「今すぐ低血糖かどうかを知りたい」という切迫した状況で特に役立つ可能性があります。
■ 他の非侵襲技術との比較:超音波の強みとは?
現在、非侵襲血糖測定の研究は活発で、今月だけでも2つの大きな成果がありました:
- オプトアコースティック技術(光と音を組み合わせた解析法)による非侵襲測定に成功(ドイツ研究)
- pHキャリブレーションを利用した逆イオントフォレシス方式の高精度化(Nature Communications)
一方、今回の超音波方式は以下の点で独自のメリットを持ちます:
◎ 皮膚の色・厚さ・状態の影響を受けにくい
光を使う方式が避けられない「皮膚の個人差」の問題を回避できる。
◎ 血液と間質液の時間差(タイムラグ)を避けられる可能性
既存のCGM(Dexcomなど)は皮下組織の間質液を測るため、
血糖値と数分のタイムラグが発生します。
超音波方式は血液そのものをターゲットにできる可能性があります。
■ 臨床利用にはまだ課題も多い
革新的な結果が出た一方で、研究者たちは課題を明確に認識しています。
● モデルの “過学習”
- トレーニング精度 86%以上
- テスト精度 65〜68%
この差から、AIが「学習データに特化しすぎて汎用性が低い」状況が見て取れます。
● 使用した血液は馬の全血サンプル
実験条件は極めて制御されており、
人間の皮膚越しの測定とは環境が大きく異なります。
● 全血は信号が複雑
血小板・白血球など多数の成分が混在し、超音波反射が複雑になるため、
ノイズが増加してAIがパターンを学びにくい。
今後は以下の改善が必要とされています:
- データセットの大幅拡張
- トランスデューサの動きによるノイズ低減
- 人の皮膚越しの測定条件への適応
- モデルの汎化性能向上
■ “針のいらない血糖測定” へ確実に前進
既存のCGM(持続血糖測定器)は便利ですが、
- 皮下にセンサーを刺す必要がある
- 数日ごとの交換が必要
- コストが高い
などの課題があります。
今回の超音波×AI技術はまだ初期段階にあるものの、
✔ 低血糖/高血糖を高精度で判別可能
✔ 無侵襲で痛みゼロ
✔ 光学方式の弱点を回避できる
という大きなポテンシャルを持っています。
研究チームは、
「無針での血糖モニタリングを実現するため、技術をさらに磨く」と述べており、
今後、非侵襲型血糖測定の分野が急速に進化することが期待されています。
ソース
- azonano
- nature
- Helmholtz Munich
- npj Acoustics(Natureポートフォリオ)

