
■ 銀河の中心に隠された星のゆりかご
2025年9月、NASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)が、天の川銀河で最も活発に星が生まれている領域――「いて座B2(Sagittarius B2)」――をこれまでにないほど詳細に観測しました。
この場所は地球からおよそ27,000光年の彼方、天の川銀河の中心部に存在する巨大な分子雲であり、銀河の心臓部にある**超大質量ブラックホール「いて座A*」**からわずか数百光年しか離れていません。
ウェッブ望遠鏡が撮影した赤外線画像には、色とりどりの大質量星と輝く宇宙塵が映し出され、まるで宇宙の「恒星工場」を覗き込むかのような光景が広がっています。
■ ウェッブでも見通せない「暗黒の雲」
今回の画像で最も印象的なのは、輝く星々の間に広がる“真っ暗な領域”です。
一見すると空っぽの空間に見えますが、実際にはそこには極めて高密度のガスと塵が詰まっており、ウェッブの高性能な赤外線装置でさえ透過できないほど濃いのです。
NASAの研究者はこれを次のように説明しています。
「これらの暗黒の雲は、将来の星を生み出すための材料の宝庫です。まだ光を放つことができないほど若い星たちの“繭”なのです。」
つまり、私たちが「空白」だと感じるその領域こそ、星の種が育まれている場なのです。
■ いて座B2の驚異的な効率
いて座B2が特別なのは、その星形成効率の高さです。
銀河中心部に存在する星形成物質のわずか10%しか含まれていないにもかかわらず、この領域は銀河全体で生まれる新しい星の約半分を生み出しています。
その総質量は太陽の約300万倍に相当し、まさに「銀河最大の恒星工場」と呼ぶにふさわしい存在です。
研究チームのナザール・ブダイエフ氏は次のように述べています。
「ウェッブによる観測が新たな発見をもたらすたびに、また別の謎が浮かび上がります。その探究に携われることは、非常にエキサイティングです。」
ウェッブの観測では、ガスと塵の奥深くに隠れていた若い星々が初めて姿を現し、さらに星の強烈な風が掘り進めた細長いトンネル状の構造まで確認されました。これらは巨大な星団がどのように誕生するのかを解明する重要な手掛かりとなります。
■ 赤外線観測がもたらしたコントラスト
今回の研究は、ウェッブ望遠鏡の二つの装置――NIRCam(近赤外線カメラ)とMIRI(中間赤外線装置)――の両方を組み合わせて行われました。
- NIRCamでは、色鮮やかな星々やガス雲の輝きが映し出され、まるで銀河のイルミネーションのように見えます。
- MIRIでは、若い大質量星の周囲で温められた塵が強調され、逆に多くの星が姿を消してしまいます。
このコントラストが、星形成の現場で起きている複雑な物理過程を浮かび上がらせました。つまり、異なる波長を組み合わせることで「見える宇宙」と「隠れた宇宙」を同時に描き出すことができたのです。
■ 初期宇宙を読み解くカギ
いて座B2の重要性は、私たちの銀河の内部構造を理解するだけではありません。
この領域の環境は、数十億年前の遠方銀河に似ているため、観測結果は「初期宇宙において星や星団がどのように形成されたのか」を探る手掛かりともなります。
ウェッブ望遠鏡の主導研究者であるアダム・ギンズバーグ氏はこう語ります。
「これは私たちの銀河の姿をより明らかにすると同時に、銀河そのものが宇宙の時間の中でどのように成長し、進化してきたのかを理解する助けになるのです。」
銀河形成の歴史を解き明かすことは、宇宙全体の進化のシナリオを描くうえで不可欠です。いて座B2の研究は、その壮大なパズルの一片を埋めるものとなりました。
■ まとめ ― 宇宙の「暗黒のゆりかご」を覗き込む
ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影したいて座B2は、単なる美しい画像にとどまりません。
- ウェッブですら見通せないほどの濃密な星の“繭”
- 驚異的な効率で星を生み出す「恒星工場」
- 過去の銀河形成を映す“タイムマシン”としての役割
これらはすべて、天文学が挑む根本的な問い――「宇宙はどのようにして星々を生み、銀河を成長させてきたのか」――への答えに近づくための重要な手がかりです。
ウェッブが見せてくれる新しい宇宙像は、私たちの想像力を超え続けています。そして、その一枚の画像の中に、未来の科学を揺さぶる発見が眠っているのです。

