細胞の中の出来事を「あとから再生」できる新技術
ミシガン大学の研究チームは、生きている細胞の中で起きる遺伝子の働きを、最大3週間にわたって記録できる新しい技術を開発しました。
この技術は、細胞の中に「テープレコーダー」のような役割を果たすタンパク質を作らせるものです。
これまでの研究では、
・遺伝子が「今」どう動いているか
は分かっても、
・過去にどう変化してきたのか
を同じ細胞で追い続けることはできませんでした。
今回の技術は、細胞の過去の行動を、時間の流れごと記録できる点が大きな特徴です。
新技術「CytoTape」とは何か
この技術は「CytoTape(サイトテープ)」と呼ばれ、2026年1月26日に科学誌Natureに発表されました。
CytoTapeは、
細胞の中で自然に伸びていく、細長いタンパク質です。
このタンパク質は人工的に設計されており、細胞内で少しずつ成長していきます。
そして成長する途中で、
その時点で起きた遺伝子の働きが、順番に記録されていく仕組みになっています。
「分子のテープ」にどうやって記録するのか
CytoTapeの仕組みは、木の年輪を思い浮かべると理解しやすくなります。
木は成長するたびに年輪を作り、
あとから見ると「どの年に何が起きたか」が分かります。
CytoTapeも同じように、
タンパク質が伸びる方向に、時間順で細胞の出来事を刻み込んでいきます。
・いつ、どの遺伝子が
・どのくらい活発に働いたのか
が、あとから顕微鏡で確認できるようになります。
1つの細胞で、複数の遺伝子を同時に記録
研究チームは、CytoTapeを使って
1つの細胞の中で、5種類の重要な遺伝子スイッチの働きを同時に記録できることを確認しました。
対象となったのは、
・CREB
・c-fos
・Arc
・Egr1
・Npas4
といった、記憶や学習、細胞の変化に深く関わる因子です。
この実験は、
・腎臓の細胞
・がん細胞
・脳の補助細胞(グリア細胞)
・神経細胞
など、性質の違う細胞で行われ、どの細胞でも安定して記録できることが示されました。
生きたマウスの脳でも記録に成功
さらに研究チームは、この技術を生きた動物の体内で使える形に改良しました。
それが「CytoTape-vivo」です。
この方法を使うことで、
生きたマウスの脳の中で、数週間にわたり遺伝子の働きを記録することに成功しています。
記録できた神経細胞は、
最大14,123個。
しかも、どの脳の場所で起きた変化かも区別できます。
これは、これまでの脳研究ではほとんど不可能だった規模です。
過去の技術を進化させた新しい仕組み
CytoTapeは、研究代表者が以前に開発した技術を土台にしています。
そこに、
人工知能を使った設計と
新しい分子構造の工夫
を加えることで、記録できる情報量と期間が大きく伸びました。
その結果、
・遺伝子が働いたかどうか
だけでなく、
・どの順番で
・どんなリズムで
働いたのかまで分かるようになっています。
なぜこの技術が重要なのか
細胞は、過去の状態を無視して行動しているわけではありません。
これまでの履歴を踏まえて、次の動きを決めていると考えられています。
CytoTapeは、
その「細胞の記憶」を直接読み取る手段になります。
研究チームは、
健康な脳と病気の脳を比べることで、どこで何が狂い始めたのかを突き止められる可能性がある
としています。
これは、将来の治療法開発につながる重要なヒントになります。
基礎研究から病気の解明まで幅広い応用
CytoTapeは、
・基礎的な生命科学
・脳や神経の研究
・がん研究
・発達障害や神経疾患の研究
など、非常に幅広い分野での活用が期待されています。
細胞の中で起きる出来事を
「その瞬間」ではなく
「時間の流れごと」理解できるようになることで、
生命科学の研究の進め方そのものが変わる可能性があります。
ソース
・Michigan Medicine
・Nature(2026年1月26日掲載論文)
・ミシガン大学公式研究発表

