日本政府は、深海に眠るレアアース資源の開発を通じて、資源安全保障を強化する新たな段階に入りました。
日本の研究者らが、太平洋の水深およそ6,000メートルという極限環境から、レアアース元素を含む泥の採取に成功しました。この深さから鉱物資源を回収したのは世界で初めてとされています。
この成果は、電気自動車や風力発電、防衛関連システムに欠かせない重要素材について、中国への依存度を下げようとする日本政府の戦略の一環です。
高付加価値産業を支える基盤資源を自国で確保できる可能性が、現実味を帯びてきました。
「ちきゅう」による深海掘削 南鳥島近海での挑戦
今回の採取を担ったのは、海洋研究開発機構が運用する深海掘削船「ちきゅう」です。
「ちきゅう」は、東京から南東へ約1,900キロ離れた南鳥島近海の海底で、レアアースを豊富に含む堆積物の回収に成功しました。
「ちきゅう」は1月11日に静岡県清水港を出港し、1月17日に掘削地点へ到達しました。
回収作業は1月30日に始まり、2月1日には最初のレアアース泥が船上へ引き上げられています。現在も複数地点で採取が進められており、分析のため2月15日に帰港する予定です。
高市首相「世界初」と評価 日米連携を視野に
高市早苗首相は、この成果をソーシャルメディア上で「世界初」と称賛しました。
さらに、来月予定されている日米首脳会談において、米国に対してこの深海レアアース開発プロジェクトへの参加を要請する意向を示しています。
日本単独での開発にとどまらず、同盟国と連携することで、技術力や資金面、安全保障上の連動を強める狙いがあります。
深海資源は経済問題であると同時に、国際政治や安全保障とも密接に関わる分野です。
採取されたレアアースの中身とその重要性
内閣官房の尾崎正直副長官は、「今回の成功は、経済安全保障と総合的な海洋開発にとって重要な節目だ」と述べています。
採取された泥には、次のような希少元素が含まれていると考えられています。
ジスプロシウムとネオジムは、電気自動車のモーターや発電機に使われる高性能磁石に不可欠です。
また、ホルミウムやテルビウムは、レーザーや半導体など先端技術分野で重要な役割を果たします。
これらはいずれも代替が難しく、供給が滞ると産業全体に影響が及ぶ元素です。
南鳥島近海は世界有数のレアアース埋蔵地
政府の推計によりますと、南鳥島近海の海底鉱床には、少なくとも1,600万トンのレアアースが埋蔵されているとされています。
これは、中国、ブラジルに次ぐ世界第3位規模に相当します。
日本政府は2018年以降、採掘技術の研究開発に約400億円を投じてきました。
今回の成功は、長年の投資がようやく成果として表れた形です。
中国との緊張が開発を急がせる背景に
このプロジェクトの緊急性を高めている要因の一つが、中国との関係です。
2026年1月、中国は中重希土類元素7種を含むデュアルユース製品について、日本向け輸出制限を実施しました。
現在、中国は日本のレアアース輸入の約60パーセントを占めています。
戦略的イノベーション創造プログラムの石井正一プログラムディレクターは、「威圧的な行動に強い危機感を抱いている」と述べています。
さらに、昨年の日本による調査の際には、中国海軍の艦船が南鳥島周辺海域に侵入した事例もあり、資源開発と安全保障が切り離せない問題であることが浮き彫りになっています。
環境への影響と技術的な対策
一方で、深海採掘に対しては環境面の懸念も指摘されています。
テキサスA&M大学の海洋生物学者トラビス・ワシュバーン氏は、採掘が深海生態系の生息地を直接破壊する可能性があると警告しています。
これに対し、日本の技術者たちは、堆積物が周囲の海域に拡散しないようにする閉ループ循環システムを開発しました。
環境への影響を最小限に抑える設計が、商業化の前提条件となっています。
今後の計画 商業化に向けた試験段階へ
政府は、2027年2月に1日あたり350トンの泥を回収することを目標とした大規模な採掘試験を実施する計画です。
その結果を踏まえ、2028年3月までに包括的な商業的実現可能性の報告書がまとめられる予定です。
深海レアアースの商業化が実現すれば、日本の産業構造と資源戦略に大きな転換点をもたらすことになります。
ソース
Boston Globe
Reuters
mining.com
Argus Media
France 24
New York Times
Benchmark Mineral Intelligence
海洋研究開発機構発表
政府関係者発言

