NYU研究が解明 がん細胞が免疫から隠れるLCN2の仕組みと新治療の可能性

NYUランゴン・ヘルス(New York University Langone Health)

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NYUランゴン・ヘルスは、アメリカ・ニューヨークに拠点を置く大規模な医療・研究機関です。
その中核を担うNYUグロスマン医学部は、がん研究や免疫研究の分野で世界的に知られています。

今回の研究は、そのNYUランゴン・ヘルスの研究チームによって実施されました。

研究成果が掲載された「Nature」

この研究成果は、2026年2月17日に科学誌「Nature」に掲載されました。

Natureは、世界で最も権威ある科学雑誌の一つです。
厳しい査読(専門家による審査)を経て掲載されるため、科学的信頼性が高い研究であることを意味します。

がん細胞が免疫から逃れる「意外な仕組み」

今回明らかになったのは、がん細胞が自ら免疫攻撃をかわす仕組みです。

私たちの体には、本来がん細胞を攻撃する免疫システムがあります。
しかし、実際には多くのがんが免疫から逃れ、増殖を続けてしまいます。

研究チームは、肺がんと膵臓がんを対象に詳細な解析を行いました。
その結果、リポカリン2(LCN2)というタンパク質が重要な役割を果たしていることを突き止めました。

LCN2とは何か

LCN2は、がん細胞が強いストレスを受けたときに分泌されるタンパク質です。

ここでいうストレスとは、精神的なものではありません。
栄養不足や低酸素状態など、細胞が生き延びるのに厳しい環境を指します。

がん細胞は、そのような過酷な状況に置かれると、LCN2を外部に放出します。
そしてこのLCN2が、周囲の免疫環境を大きく変えてしまいます。

免疫細胞「マクロファージ」を味方に変える

腫瘍の内部には、マクロファージという免疫細胞が多く存在します。

マクロファージは通常、異物やがん細胞を取り込み、排除する働きを持っています。
しかし、LCN2はこのマクロファージを腫瘍を守る状態へと変えてしまいます。

その結果、がんを攻撃するT細胞が腫瘍内に入りにくくなります。
特に、がん細胞を直接攻撃するCD8+T細胞や、免疫反応を調整するCD4+T細胞の浸潤が減少します。

一方で、免疫反応を抑える制御性T細胞は増加します。
つまり、がんにとって有利な免疫環境が作られてしまうのです。

ATF4という「スイッチ」

研究では、LCN2がどのように作られるのかも解明されました。

鍵を握るのは、ATF4という転写因子です。

転写因子とは、遺伝子のスイッチを入れる役割を持つタンパク質です。
ATF4は、細胞がストレスを感じたときに活性化します。

この仕組みは統合ストレス応答経路と呼ばれます。
これは、細胞が危機的状況に対応するための防御システムです。

がん細胞はこの仕組みを利用し、ATF4を介してLCN2を大量に作り出します。

共同責任著者であるタレス・パパジアンナコプロス准教授は次のように述べています。

「ストレスを受けたがん細胞は、LCN2を通じて助けを求めることを学習しており、それが免疫系からがん細胞を保護しています」

T細胞を呼ぶ「CXCL9」を抑える

さらに研究チームは、LCN2がCXCL9というケモカインを抑制することを発見しました。

ケモカインとは、免疫細胞を呼び寄せる目印となる分子です。
CXCL9は、特にT細胞を腫瘍へ導く重要な役割を持っています。

しかしLCN2が存在すると、CXCL9の産生が低下します。
その結果、T細胞が腫瘍に集まりにくくなります。

つまりLCN2は、免疫細胞を遠ざける「見えないバリア」のように働くのです。

抗LCN2抗体が示した治療効果

研究チームは、ヒトLCN2を標的とする合成抗体を開発しました。

現在の免疫療法の多くは、細胞表面の受容体を標的にしています。
しかしLCN2は分泌型タンパク質であり、治療標的としては新しいタイプです。

マウスモデルでの実験では、抗LCN2抗体が腫瘍の成長を抑制しました。

さらに、抗PD1チェックポイント阻害剤と併用した場合、効果が強まりました。

生存期間中央値は以下の通りです。

・対照群:19日
・抗PD1単独群:20日
・抗LCN2+抗PD1併用群:26日

併用群では、明確な生存期間延長が確認されました。

ヒト腫瘍での臨床的関連

ヒト腫瘍サンプルの解析でも重要な結果が得られました。

肺がん患者では、LCN2発現と腫瘍グレードが強く相関していました。
LCN2が多い領域では、T細胞浸潤が低いことが一貫して確認されました。

また、約1,000人の免疫療法患者のデータ解析では、
LCN2発現が低い患者の方が全生存期間が良好でした。

膵臓がんでも、LCN2陽性領域とT細胞排除の関連が空間解析で確認されました。

予後バイオマーカーと治療標的の可能性

今回の研究は、LCN2が次の2つの役割を持つ可能性を示しています。

  1. 予後バイオマーカー
  2. 治療標的

予後バイオマーカーとは、病気の進行や生存率を予測する指標です。

LCN2が高い腫瘍は免疫抑制的である可能性が高いです。
そのため、免疫療法への反応性を予測する手がかりになります。

さらに、現在の免疫療法に抵抗性を示す腫瘍に対し、
新たな治療戦略を提供する可能性があります。

まとめ

今回の研究は、がん細胞がストレス応答を利用して免疫系から逃れる仕組みを明らかにしました。

LCN2は単なるストレス応答分子ではありません。
それは、免疫環境を積極的に作り替える分子です。

もしヒトでの臨床試験が成功すれば、
免疫療法の効果を高める新しい治療法が誕生する可能性があります。

今後の研究の進展が注目されます。

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