臍帯血から42種類のPFAS検出|出生前曝露の実態と新分析手法が示すリスク

PFASとは何か:赤ちゃんの体内に残る「分解されにくい化学物質」

PFASとは、「パーフルオロアルキル化合物およびポリフルオロアルキル化合物」の総称です。専門的な名称ですが、分かりやすく言えば、水や油をはじき、熱や汚れに強いよう人工的に作られた化学物質のグループのことです。

このPFASは、非常に分解されにくいという特徴を持っています。自然界でも体内でも長期間残り続けるため、「永遠の化学物質(フォーエバー・ケミカル)」とも呼ばれています。つまり、一度体内に入ると簡単にはなくならない可能性がある物質なのです。

これまでPFASは、フライパンの焦げ付き防止加工、防水スプレー、食品包装材など、私たちの日常生活のさまざまな製品に利用されてきました。一方で、近年は体内蓄積や健康への影響が懸念され、世界各国で規制の動きも広がっています。

こうした中で発表された今回の研究は、赤ちゃんが生まれる前の段階、つまり母親のおなかの中にいる時点で、すでに多種類のPFASに曝露している可能性を示しました。この点は非常に重要です。なぜなら、曝露が出生後の環境だけでなく、胎児期から始まっていることを意味するからです。

臍帯血から42種類のPFASが見つかった理由

今回の研究は、科学誌Environmental Science & Technologyに掲載されました。研究を主導したのは、ニューヨークにあるIcahn School of Medicine at Mount Sinaiの研究チームです。

研究では、2003年から2006年の間に採取され保存されていた臍帯血が分析されました。対象は、シンシナティを拠点とする妊娠コホート研究「HOME Study」に登録されていた120人の乳児です。

臍帯血とは、赤ちゃんと母親をつなぐへその緒の血液のことです。この血液を調べることで、胎児が母体を通じてどのような物質に曝露していたのかを知ることができます。つまり、出生前の環境を知る手がかりになります。

従来の検査では、あらかじめ決められた少数のPFASだけを測定していました。これは「標的分析」と呼ばれる方法です。しかし今回の研究では、非標的化学分析法という、より広範囲を調べられる手法が用いられました。

非標的分析とは、特定の物質だけを探すのではなく、数百から数千種類の化合物を一度にスキャンする方法です。事前にリスト化されていない物質も検出できる点が特徴です。

その結果、確認済みまたは推定されるPFASが42種類も検出されました。これは従来の検査よりはるかに多い数です。しかも、これまで標的検査で検出されていた物質と重なっていたのは、わずか4種類だけでした。

つまり、これまでの検査では、胎児が実際に曝露しているPFASの大部分が把握されていなかった可能性があるということになります。

なぜこれまで見つからなかったのか

今回検出された42種類には、パーフルオロ化合物、ポリフルオロ化合物、フルオロテロマーなどが含まれていました。いずれもPFASに分類される物質です。

しかしこれらの多くは、日常的な健康評価や環境調査では定期的に測定されていませんでした。そのため、健康への影響がどの程度あるのかについては、まだ十分なデータがない状態です。

研究を率いたShelley H. Liu博士は、測定方法そのものが重要だと強調しました。博士は、「PFASをどのように測定するかが本当に重要です」と述べています。

そして、より包括的な方法を用いることで、これまで認識されていたよりもはるかに多くのPFASに赤ちゃんが出生前から曝露していることが明らかになったと説明しました。つまり、測定の範囲を広げることで、曝露の実態そのものが変わって見える可能性があるのです。

PFAS-omics負荷スコアとは何か

研究チームは、単一の物質だけでなく、PFAS全体の負荷を評価するために新しい指標を開発しました。それが「PFAS-omics負荷スコア」です。

このスコアの作成には、「項目反応理論」という統計手法が使われました。これは本来、テストの成績分析などで用いられる方法ですが、複数の要素を総合的に評価できるため、化学物質の総体的な負荷を算出するのにも応用されました。

この手法により、乳児ごとの累積的なPFAS曝露を一つの数値として示すことが可能になりました。つまり、個々の物質を別々に見るのではなく、体内に存在するPFAS全体の状況を総合的に評価できるようになったということです。

従来の限定的な検査では、このような総体的な評価は困難でした。今回の新しいスコアリングは、曝露の全体像をより正確に捉える試みといえます。

初産婦と経産婦の差が消えた理由

このPFAS-omics負荷スコアを用いた分析では、注目すべき結果が示されました。

より広範囲のPFASを評価した場合、初産婦から生まれた乳児と、経産婦から生まれた乳児との間に、PFAS曝露の有意な差は認められませんでした。

従来の研究では、限定されたPFASのみを対象にした分析で両者に差があると報告されていました。しかし今回の包括的な評価では、その差は確認されなかったのです。

これは、検査対象を広げることで、これまでの仮説や理解が見直される可能性があることを示しています。測定方法が変われば、結論も変わる可能性があるという重要な示唆です。

胎児期曝露の意味と今後の課題

PFASは環境中に広く存在しており、水や食品、日用品などを通じて体内に取り込まれる可能性があります。そのため、完全に避けることは簡単ではありません。

今回の研究は、胎児期から多種類のPFASに曝露している可能性を明らかにしました。しかし、検出された多くの物質については、健康への影響がまだ明確ではありません。

つまり、問題は「存在するかどうか」だけではありません。どの物質が、どの程度、どのような影響を及ぼすのかを解明することが、今後の重要な課題となります。

測定技術の進歩によって、これまで見えなかった曝露の実態が明らかになりつつあります。しかし同時に、新しい疑問も生まれています。

今後の研究が、胎児期のPFAS曝露の意味をより深く理解し、健康評価や規制政策にどのように反映されるのかが注目されます。

ソース

Environmental Science & Technology
Icahn School of Medicine at Mount Sinai
pubmed.ncbi.nlm.nih.gov
scitechdaily.com
ajmc.com

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