香港大学、音響吸収の限界を打ち破る物理原理を発見|通気性維持で86%超吸音

香港大学(HKU)

香港大学は、香港を代表する研究大学です。
今回、音響吸収の限界を打ち破る物理原理を発見したと発表しました。

この成果は、空気の流れを維持しながら騒音を低減できる可能性を示します。
そのため、建築、車両、産業環境への応用が期待されています。

何が発見されたのか

香港大学機械工学科のNicholas X. Fang教授率いる研究チームは、場の理論から借用した「双対対称性」という概念に着目しました。

場の理論とは、電磁場や音場などを数学的に扱う理論です。
双対対称性とは、物理法則がある種の入れ替えに対して同じ形を保つ性質を指します。

研究チームは、この双対対称性が、通気性システムの吸収帯域幅を支配していることを発見しました。
つまり、どれだけ広い周波数の音を吸収できるかが、この対称性により決まると示しました。

因果律制約への挑戦

従来の音響理論では、「因果律制約」が広く受け入れられてきました。

因果律制約とは、材料の厚さと吸音できる帯域幅の間に理論的上限が存在するという考え方です。
そのため、薄い材料で広帯域吸音を実現することは困難とされてきました。

しかし今回の研究は、この長年の前提に異議を唱えています。
研究成果は学術誌Nature Communicationsに掲載されました。

研究者のコメント

本研究の筆頭著者であるSichao Qu博士は、次のように述べています。

「私にとって最もエキサイティングな瞬間は、双対対称性が通気性システムの吸収帯域幅を支配していることに気づいた時でした。」

また、

「対称性と吸収帯域幅は以前は無関係な概念でした。私たちの導出により、それらの間に深い数学的結合があることが明らかになりました。」

と説明しています。

理論から試作へ

理論を検証するため、研究チームは試作構造を設計しました。

この構造は、2つの音響チャンバーを接続した換気構造です。
空気は自由に通過します。

しかし音のエネルギーは、破壊的干渉によって捕捉されます。
破壊的干渉とは、相反する音波が互いに打ち消し合う現象です。

実験では、300Hzから6,000Hzの範囲で86%以上の音を吸収しました。
同じ厚さの従来フォームパネルを上回る性能を示しました。

新しい評価指標の導入

研究チームは「Figure of Merit(性能指数)」という新しい指標も導入しました。

この指標は、
・帯域幅
・厚さ
・空気の流れ

を同時に評価します。

従来の評価基準よりも包括的です。
つまり、実用環境に近い評価が可能になります。

背景にある課題

換気と騒音制御のトレードオフは、長年の課題でした。

高密度フォームは音を吸収します。
しかし空気を遮断します。

一方で、換気用の開口部は空気を通します。
しかし騒音も通します。

これまでのメタマテリアル技術でも、気流を維持しながら50%以上の吸音率を達成することは困難でした。

研究の系譜

Fang教授は2022年にMITから香港大学に移籍しました。

教授は負の弾性率を持つ超音波メタマテリアルの研究で知られています。
その研究により、2025年にブリルアン・メダルを授与されました。

今回の研究は、その延長線上にあります。
実用的な騒音制御を目指す取り組みです。

今後の応用可能性

研究チームは、次の分野への応用を見込んでいます。

・建築設計
・航空機エンジンナセル
・産業用減衰材

また、人工知能とシミュレーションツールが量産最適化を加速できると述べています。

現時点でこの研究は、理論的基盤を確立した段階です。
しかし研究者らは、

「広帯域音響メタマテリアルにおける未開拓の吸音ポテンシャル」を明らかにした

としています。

ソース

  • 香港大学公式発表
  • Nature Communications
  • HKU公式サイト
  • PubMed関連資料
  • Mirage News

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