欧州中央銀行(ECB)
ECB(欧州中央銀行)は、ユーロ圏20カ国の金融政策を担う中央銀行です。
本部はドイツのフランクフルトにあります。
物価安定、つまりインフレ率2%前後の維持を目標にしています。
イラン戦争拡大でインフレ急騰の懸念
ECBは、イラン戦争の拡大が「大幅なインフレ急騰」を引き起こす可能性があると警告しました。
米国とイスラエルによるイラン攻撃が拡大する中、エコノミストや中央銀行関係者の警戒感が強まっています。
紛争が長期化すれば、欧州が最近達成したインフレ抑制の成果が逆転する可能性があるからです。
つまり、物価上昇と経済成長の鈍化が同時に起きるリスクが浮上しています。
フィリップ・レーン氏の発言
ECBのチーフエコノミストであるフィリップ・レーン氏は、英紙フィナンシャル・タイムズのインタビューで次のように述べました。
中東戦争が長期化すれば、ユーロ圏のインフレが「大幅に急騰」し、経済生産が「急激に低下」する可能性がある。
レーン氏はこう指摘しています。
「エネルギー価格の急騰は、特に短期的にインフレ圧力を高める。」
「このような紛争は経済活動にマイナスとなる。」
また、影響の規模は「紛争の広がりと期間」に依存すると強調しました。
原油と天然ガス価格の急騰
市場はすでに反応しています。
月曜日、原油価格は10%以上急騰しました。
ブレント原油は1バレル約79ドルまで上昇しました。
これはECBが12月に示した予測を20%以上上回る水準です。
天然ガスはさらに急騰しました。
オランダの指標価格は最大38%上昇しました。
背景には、カタールエナジーの施設がドローン攻撃を受け、2カ所で生産停止となったことがあります。
さらに、ロイターが引用した船舶データによると、200隻以上の石油・LNGタンカーがホルムズ海峡付近に停泊しています。
この海峡は世界のエネルギー輸送の要衝です。
混乱が続けば供給不安が広がります。
欧州のガス貯蔵量は低水準
欧州は特に天然ガス面で脆弱です。
ベルギーのシンクタンクであるブリューゲル研究所は、次の数字を示しました。
2月末時点のガス貯蔵量は460億立方メートルです。
2025年は600億立方メートルでした。
2024年は770億立方メートルでした。
つまり、供給途絶に対する緩衝材が大幅に減少しています。
ECBの感応度分析と最悪シナリオ
ECBは12月に感応度分析を実施しました。
感応度分析とは、価格変動が経済に与える影響を試算する手法です。
石油・ガス価格が恒久的に14%上昇した場合、
・インフレ率は最大0.5ポイント上昇
・成長率は0.1ポイント低下
と試算しました。
しかし、現在の価格ショックはすでにその水準を超えています。
コメルツ銀行の試算
コメルツ銀行のチーフエコノミスト、イェルク・クレーマー氏は警告しました。
ブレント原油が100ドルに達し、その水準が続いた場合、
・インフレ率は現在の1.7%から3%弱へ上昇
・同時に成長が損なわれる
と指摘しました。
これにより、ECBは「ジレンマ」に直面すると述べました。
さらに、紛争が数カ月続けば、インフレ率が少なくとも1ポイント上昇すると試算しています。
ABNアムロとJPモルガンの見通し
ABNアムロは、より深刻なシナリオを想定しました。
ブレント原油が130ドルに達した場合、
2026年のインフレ率を1.3ポイント押し上げると分析しています。
一方でJPモルガンは為替に注目しています。
現在ユーロは1.17ドル超です。
しかし、原油が100〜120ドルに達すれば、
ユーロは1.10〜1.13ドルへ下落する可能性があると警告しました。
エネルギーはドル建てです。
そのため、ユーロ安は追加的なインフレ圧力になります。
2022年エネルギーショックの再来か
この状況は2022年を想起させます。
ロシアのウクライナ侵攻は、ユーロ圏の
・インフレ率を2ポイント押し上げ
・成長率を1ポイント低下
させました。
現在の預金金利は2%です。
ECBは短期的なエネルギー価格変動を無視する傾向があります。
そのため、直ちに金利変更を行うとの見方は強くありません。
トランプ大統領の発言と今後
ドナルド・トランプ大統領は、作戦が最長4週間続く可能性を示唆しました。
市場は短期紛争を前提に動いているとクレーマー氏は述べました。
それが最も可能性の高いシナリオだとしています。
しかし、戦争が長期化すれば影響は拡大します。
欧州経済は再び大きな試練に直面する可能性があります。
まとめ
ECBはイラン戦争拡大によるインフレ急騰を強く警戒しています。
原油79ドル、天然ガス38%上昇という現実がすでに示しています。
さらに100ドル、130ドルというシナリオでは、
インフレ率は1〜1.3ポイント押し上げられる可能性があります。
市場は短期収束を期待しています。
しかし、長期化すれば欧州経済への打撃は深刻です。
金融政策の「ジレンマ」が再び浮上しています。
ソース
Reuters
Financial Times
The Guardian
Bruegel
WKZO
FXStreet
Trading Economics
Global Banking & Finance


