政府が石油備蓄放出を開始|外国籍タンカー活用とカボタージュ制度の課題

日本政府は3月16日、過去最大規模となる石油備蓄の放出を開始しました。
背景には、イラン情勢の悪化に伴うホルムズ海峡の事実上の封鎖があります。
そのため、日本の原油供給と国内物流の両面が一気に緊迫しました。

今回の焦点は、単に備蓄を放出することではありません。
備蓄した原油を、どう国内の製油所まで運ぶのかが重要です。
つまり、供給確保と海上輸送体制が一体の課題になっています。

さらに、石油業界では外国籍タンカーの活用が不可避との見方が広がっています。
一方で、日本には国内港間輸送を制限する仕組みがあります。
こうした中、制度運用の速さが現実の供給を左右します。

備蓄放出は民間分に続き国家分へ進む

今回の措置では、まず民間備蓄15日分の放出が始まりました。
また、3月下旬からは国家備蓄1カ月分の放出も予定されています。
そのため、放出規模は非常に大きなものになります。

民間備蓄とは、石油会社などが保有する備えです。
一方で国家備蓄は、政府が政策目的で確保する備えを指します。
実際に今回は、その両方を使う異例の対応となりました。

政府は、原油供給の急減に備える必要がありました。
しかし、備蓄があっても運べなければ意味がありません。
そのため、物流の確保が次の焦点として浮上しています。

石油業界が重視する「運ぶ力」

石油業界関係者は、「量が膨大で内航船では対応が難しい」と指摘しています。
また、国家備蓄は原油なので、大型の外航タンカーが活用されるとの見方も示しました。
つまり、通常の国内向け輸送だけでは処理しきれない規模だということです。

内航船とは、国内の港と港の間を運航する船です。
一方で外航タンカーは、国際航路で大量輸送に使う大型船です。
こうした中、国家備蓄原油の移送では後者の重要性が高まっています。

国家備蓄は、全国10カ所の基地にJOGMECが管理しています。
JOGMECは、エネルギーや鉱物資源を扱う政府系機関です。
そのため、各基地から製油所への移送体制が実務の中心になります。

VLCC活用の可能性が浮上

製油所への移送には、VLCCが使われる可能性があります。
VLCCとは、超大型原油タンカーのことです。
大量の原油を一度に運べるため、今回のような局面で注目されます。

実際に、国家備蓄は原油の形で保管されています。
そのため、製品油ではなく原油をそのまま運ぶ能力が必要です。
さらに、短期間で大量輸送するには大型船が適しています。

しかし、船が大きければそれで解決という話ではありません。
日本国内の港間輸送には制度上の壁があります。
一方で、緊急時にはその壁をどう越えるかが問われます。

外国籍タンカー活用で浮かぶ制度の壁

ここで問題になるのが、カボタージュ制度です。
これは、外国籍の船舶による国内港間輸送を原則禁止する仕組みです。
国際慣行に基づく制度であり、日本でも運用しています。

つまり、外国籍タンカーを国内輸送にそのまま回すことはできません。
そのため、特別な手続きが必要になります。
こうした中、備蓄放出と制度運用が密接に結びついています。

外国籍タンカーを国内輸送に転用するには、国土交通大臣への「沿岸特許輸送」の申請が必要です。
この制度は、例外的に国内輸送を認めるための手続きです。
一方で、日本籍の外航タンカーであれば申請は不要です。

日本籍船の少なさが現実の制約に

日本商船隊2277隻のうち、外国籍船は1954隻です。
割合では85.8%を占めています。
一方で、日本籍船は323隻にとどまります。

この数字は、今回の課題を端的に示しています。
つまり、制度上は日本籍船の方が使いやすくても、数が限られています。
そのため、外国籍船の活用を前提に考えざるを得ない状況です。

実際に、備蓄放出は時間との勝負です。
しかし、使える船が制度上すぐ動けないなら供給は遅れます。
そのため、手続きの迅速化がそのままエネルギー安定化策になります。

ホルムズ封鎖が放出決断を後押し

今回の背景には、2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃があります。
これを受け、イランの革命防衛隊は「1リットルたりとも原油の輸出を許可しない」と宣言しました。
その結果、ホルムズ海峡は事実上通航不能となりました。

ホルムズ海峡は、中東産原油の輸送で重要な海上ルートです。
日本のエネルギー安定にとっても、極めて重要です。
そのため、通航不能は日本経済全体に直結する問題になります。

また、日本向け原油タンカーの到着は3月20日ごろから大幅に減る見通しです。
つまり、危機は将来の話ではなく、目前に迫った供給問題です。
こうした中、政府は待機ではなく先回りの対応を選びました。

政府は協調放出を待たず独自対応へ

高市早苗首相は3月11日、IEAやG7との協調放出の正式決定を待たず、独自に備蓄放出を決断しました。
これは、国際協調を待つより国内の供給確保を優先した動きです。
そのため、危機対応のスピードを重視した判断といえます。

IEAは国際エネルギー機関です。
G7は主要7カ国の枠組みです。
通常であれば、こうした国際協調の中で備蓄放出を調整します。

しかし、今回は時間の猶予が限られていました。
一方で、日本は原油の多くを中東に依存しています。
そのため、独自放出の決断が早期になりました。

放出量は45日分、約8000万バレルへ

今回の放出量は、民間備蓄と国家備蓄を合わせて45日分です。
量にすると、約8000万バレルに達します。
これは極めて大きな規模です。

この数字は、単なる象徴ではありません。
実際に、日本のエネルギー供給を維持するための現実的な緩衝材です。
つまり、供給途絶の衝撃を和らげるための時間を買う措置でもあります。

一方で、量が多いほど輸送体制の整備は難しくなります。
さらに、基地ごとの原油移送も調整が必要です。
そのため、放出決定と物流手当ては切り離せません。

業界は歓迎する一方で安全航行を注視

石油連盟の木藤俊一会長(出光興産会長)は、
「備蓄放出の決定を歓迎する。一日も早くホルムズ海峡の安全航行が確保されることを期待している」とコメントしました。
この発言は、業界が政府判断を支持していることを示しています。

また、このコメントは別の現実も示しています。
つまり、備蓄放出だけでは根本解決にならないということです。
実際に、本来必要なのは海峡の安全航行の回復です。

こうした中、石油業界は放出効果と物流対応を見極めています。
しかし、海上輸送の安全が戻らなければ緊張は続きます。
そのため、外交と安全保障の動きも経済に直結します。

焦点は3月下旬から4月上旬の輸送実務

国家備蓄の放出は3月下旬から4月上旬にかけて実施される見込みです。
その前に、外国籍船の沿岸特許輸送の手続きをどこまで迅速に進められるかが焦点です。
つまり、制度運用の遅れがそのまま供給の遅れにつながります。

国家備蓄は「ある」だけでは足りません。
必要な時期に、必要な製油所へ届いて初めて意味を持ちます。
実際に、原油の移送はエネルギー危機対応の中心作業です。

さらに、3月20日ごろから日本向けタンカー到着が減る見通しです。
一方で、国家備蓄放出はその少し後に本格化します。
そのため、手続きと輸送準備の時間は非常に限られています。

政府が問われる「流通の円滑化」

木原稔官房長官は16日、「市場における流通がスムーズに行われるよう努める」と述べました。
この発言は、政府が供給量だけでなく流通実務を重視していることを示します。
つまり、原油を出すだけでなく、止めずに回すことが求められています。

市場の流通とは、備蓄基地から製油所へ運び、製品化し、消費地へ届ける流れです。
そのどこかが詰まれば、供給不安はすぐ価格や調達に表れます。
そのため、海運、精製、流通の連携が欠かせません。

また、外国籍タンカーの活用は制度面の判断を伴います。
しかし、緊急時にそれをどう迅速にさばくかが行政能力の見せ場です。
こうした中、官民の調整力が厳しく問われます。

原油の9割超を中東に依存する日本の弱点

日本は、原油の9割以上を中東からの輸入に依存しています。
この構造は平時には成り立っていても、有事には大きな弱点になります。
そのため、ホルムズ海峡の混乱は日本にとって極めて重い意味を持ちます。

中東依存は、価格だけでなく物流面の集中リスクも生みます。
一方で、調達先の急な切り替えは簡単ではありません。
つまり、備蓄は依存構造を補う最後の防波堤でもあります。

実際に、今回の一連の動きはその弱点を改めて浮き彫りにしました。
備蓄量の確保だけでは不十分です。
さらに、備蓄原油を滞りなく製油所に届ける物流体制の構築が急務になっています。

外国籍タンカー活用は危機対応の核心になる

今回の石油備蓄放出では、放出量そのものが大きな注目を集めています。
しかし、本当の焦点は外国籍タンカーをどう使うかに移っています。
そのため、制度、船腹、手続き、時間のすべてが絡み合います。

日本籍船だけで対応するのは現実的に難しい状況です。
一方で、外国籍船の活用には沿岸特許輸送の申請が必要です。
つまり、危機対応は海運制度の柔軟性も試しています。

政府が市場流通の円滑化を掲げる以上、問われるのは実行力です。
また、石油業界は大型タンカーの活用を前提に備え始めています。
備蓄放出を本当に機能させる条件は、原油を確実に運び切ることです。

ソース

netdenjd.com
日本海事新聞
提供文面内で示された政府発言、石油連盟コメント、JOGMEC関連情報に基づく整理

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