東京ガスとENEOSが企業向け電力契約を停止 高圧・特別高圧に広がる中東危機の影響

ホルムズ海峡の事実上の封鎖が引き金となった世界的なエネルギー危機が、いよいよ日本の電力市場にも深刻な影を落とし始めました。
2026年4月、東京ガスとENEOSホールディングスが相次いで企業向け電力小売り契約の新規受け付けを停止したことが明らかになりました。
工場・商業施設・ビルなどに電力を供給する「高圧」「特別高圧」の新規顧客を当面受け付けられない事態は、新電力業界を超えて日本のビジネス全体に影響を与えかねません。

何が起きたのか——停止の概要

東京ガスは3月6日から、ENEOSホールディングスの電力小売り子会社は3月18日から、それぞれ企業向けの「高圧」および「特別高圧」の新規契約受け付けを停止しました。

各社のコメントは以下の通りです。

  • 東京ガス:「電力の調達価格の高騰を考慮した」。再開については「現時点で再開する見込みはない」と明言
  • ENEOS:「戦略上の理由」として詳細な説明を避けています

なお、一般家庭向け(低圧)の受け付けは両社とも継続しています。

なぜ停止に至ったか——卸電力価格の急騰

背景にあるのは、日本卸電力取引所(JEPX)のスポット価格の異常な高騰です。
4月1日の日平均価格は1kWhあたり23円15銭と、2月末の7円19銭からわずか1カ月で3倍超に跳ね上がりました。

新電力各社は自前の発電所を持たず、JEPXやスポット市場から電力を調達して顧客に販売する構造です。
市場価格が急騰すると、固定料金で顧客と契約している新電力は「逆ザヤ」——つまり販売価格より調達コストが上回る赤字状態——に陥ります。
今回の価格水準はこれまでの高騰局面を大きく上回るペースで推移しており、新規契約の受け付けを続ければ損失が雪だるま式に膨らむリスクがあります。

根本原因——ホルムズ海峡封鎖とLNG危機

2026年2月末、米国・イスラエルによるイラン攻撃への報復措置として、イランがホルムズ海峡を事実上封鎖しました。
この海峡は、世界の原油取引量の約20%、LNG貿易量の約20%が通過する世界最重要のエネルギー輸送路です。

特に打撃が大きいのがカタール産LNGの供給停止です。
カタールのLNG輸出の90%超が同海峡を通過しており、日本を含むアジア・欧州向けの供給に甚大な影響を与えています。
IEA(国際エネルギー機関)も「カタールを代替できる国はない」と警告を発しており、前代未聞の需給危機となっています。

日本への直接的な影響は以下の通りです。

資源依存状況具体的リスク
原油中東依存度約93.5%、うちホルムズ経由約73.7%石油火力の燃料コスト急騰
LNGホルムズ経由は輸入量の約6.3%代替調達失敗で在庫枯渇リスク

3月1日時点で日本の電力・ガス会社のLNG在庫は約3週間分(219万トン相当)にとどまっており、代替調達が遅れれば電力供給能力が急速に低下するリスクが現実味を帯びてきています。
なお、ホルムズ海峡経由分のみが止まった場合、既存在庫と代替調達の組み合わせで最大44週間分をカバーできるとの試算もあります。

業界への波及——他社の動向

日経クロステックの調査によると、販売電力量上位30社のうち、2社が特高・高圧の新規受け付けを完全停止、さらに3社が一部料金プランの受け付けを停止しています。

一方、東京電力HD・関西電力など大手電力会社は現時点で新規受け付けを継続しています。
ただし、東電HDの長崎桃子副社長は「契約数の管理が必要」と発言しており、状況次第では制限を行う可能性を示唆しています。
大手電力は自社発電設備を持つため、市場価格の高騰リスクを一定程度吸収できる構造的な強みがありますが、事態の長期化は大手各社にとっても無傷ではいられない局面です。

今後の焦点——停戦交渉と代替調達

外交面では、トランプ米大統領が4月1日にイラン作戦の早期終結を示唆し、ホルムズ海峡の再開を停戦条件の一つに挙げました。
しかしイラン外務省はこれを否定しており、事態の長期化リスクは払拭されていません。
今後の注目点は以下の3点です。

  1. 停戦・海峡再開の交渉進展:交渉次第で価格は急落する可能性があります
  2. 代替LNG調達の成否:米国産・豪州産LNGの追加調達が緊急課題です
  3. 政府の緊急対策:経済産業省によるエネルギー備蓄放出や需給調整の発動タイミングです

企業への実務的な影響

新規の電力契約を検討中の企業にとって、今回の事態は電力コスト戦略の根本的な見直しを迫るものです。

  • 既存契約の維持を優先:スポット価格連動型プランへの乗り換えは当面リスクが高いです
  • 省エネ・自家発電の加速:太陽光パネルや蓄電池の導入検討が急務です
  • 複数の電力会社との関係構築:契約停止リスクに備えた分散調達の検討を推奨します

中東情勢は日本の電力市場の構造的な弱点——発電所を持たない新電力がスポット市場に依存する構造——を改めて浮き彫りにしました。
今後の展開を注視していく必要があります。

ソース

日本経済新聞
ライブドアニュース
読売新聞
Yahoo!ニュース
JETRO
産経新聞
日経クロステック

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