経産省が石油国家備蓄の追加放出を示唆 中東危機長期化と日本のエネルギー戦略

2026年4月6日、経済産業省の赤沢亮正大臣は、中東情勢が続けば石油国家備蓄の追加放出が必要になるとの認識を示しました。

ホルムズ海峡の事実上の封鎖から約1カ月が過ぎました。
しかし、3月26日から始まった第1弾の放出だけでは、量的に不足するとの声が業界から出ています。
そのため、5月以降の石油国家備蓄の追加放出が現実味を帯びています。

今回の論点は、単なる在庫の話ではありません。
なぜなら、日本のエネルギー安全保障と、中東危機の長期化が直結しているためです。
つまり、石油国家備蓄の追加放出は、日本の経済活動を支える緊急対策として重みを増しています。

一方で、問題は原油だけにとどまりません。
LNG、つまり液化天然ガスは、冷やして液体にした天然ガスであり、発電や都市ガスに広く使います。
今後どうなるかは、石油国家備蓄の追加放出だけでなく、代替調達と海上ルートの維持にかかっています。

3段階で拡大した政府の緊急対応

政府がエネルギー危機への本格対応に踏み切ったのは、3月11日に高市首相が石油備蓄放出を指示したことが出発点です。
その後、対策は段階的に拡大しました。
また、この流れを見ると、政府が危機の長期化を見込みながら対応を積み上げたことが分かります。

まず、3月16日に民間備蓄義務量を15日分引き下げ、放出を始めました。
さらに、3月24日には国家備蓄原油の放出を決定しました。
放出予定総額は約5,400億円です。

続いて、3月26日には国家備蓄基地5カ所を含む国内11拠点から順次放出を始めました。
同時に、ガソリン補助金も過去最高の1リットルあたり48.1円へ引き上げました。
こうした中、政府は備蓄放出と価格抑制を並行して進めています。

IEAは国際エネルギー機関のことで、主要なエネルギー消費国が加盟する国際機関です。
IEA加盟32カ国の協調放出量4億バレルのうち、日本は約2割にあたる約8,000万バレル規模を担うとされます。
そのため、今回の対応は過去最大規模と位置づけられています。

公称値と実態に差がある備蓄残量の見方

政府はホルムズ封鎖以前、日本の石油備蓄を約254日分と公称していました。
しかし、放出開始後の3月23日時点では、国家備蓄146日分、民間備蓄87日分、産油国共同備蓄6日分の合計239日分まで低下しています。
数字の上ではなお大きいように見えます。

一方で、専門家はこの数字の読み方に注意を促しています。
なぜなら、帳簿上の残量と、実際に機動的に使える量は同じではないためです。
つまり、「残量」と「有効量」の乖離が、本当のリスクとして浮かび上がっています。

英紙フィナンシャル・タイムズは、日本の有効備蓄日数を95日分と報じました。
これは政府公称値との大きな差として注目されています。
実際に、この差は日本の危機対応力を見極めるうえで無視できません。

エネルギーアナリストの岩瀬昇氏は、備蓄の中には本当に使えるかどうか不明なものがあると指摘しました。
さらに、前提としている石油消費量を、実態より少なく見積もっている可能性にも言及しました。
そのため、表面上の「日数」だけで安心できない状況です。

また、日本エネルギー経済研究所の久谷一朗研究理事は、備蓄を使い切る前に代替輸入先を見つけることが必須だと警告しました。
さらに、状況によっては節電が必要になるタイミングが来るとの見通しも示しました。
ここでも、石油国家備蓄の追加放出だけでは十分ではない現実が見えてきます。

石油連盟が求めた5月の追加放出

石油元売り企業でつくる石油連盟は、現場の危機感を政府に直接伝えました。
木藤俊一会長は出光興産の代表取締役会長でもあります。
実際に、3月26日に赤沢経産相と会談し、5月に国家備蓄を追加放出するよう正式に要請しました。

会談後、木藤会長は記者団に対し、「それだけでは不足する」と述べました。
さらに、「中東産なくして量的な確保は難しい」
とも語りました。
この発言は、第1弾だけでは危機を乗り切れないという業界の見立てを端的に示しています。

石油業界4団体の幹部が政府に求めた追加放出の規模は、約20日分程度と伝えられています。
これは、現在の第1弾に続く第2弾として位置付けられています。
そのため、石油国家備蓄の追加放出は、業界要望からも具体的な政策課題に変わりました。

原油より深刻なLNGの供給制約

石油には、まだ一部の迂回手段があります。
サウジアラビアのヤンブー港は紅海沿岸の積み出し拠点です。
また、UAEのフジャイラ港からも、パイプライン経由でホルムズ海峡を迂回した輸出が可能です。

しかし、LNGにはホルムズを迂回するパイプラインが存在しません。
つまり、LNGでは代替手段が一切ないという構造問題があります。
この点が、原油とLNGの決定的な違いです。

整理すると、石油はヤンブーやフジャイラ経由で部分的な代替が可能です。
一方で、LNGはパイプラインがなく、代替はほぼ不可能です。
さらに、LPGやナフサは限定的な対応にとどまります。

ナフサは石油化学製品の原料になる軽質油です。
LPGは液化石油ガスで、家庭用や工業用の燃料として使います。
こうした中、原油だけを確保しても、エネルギー全体の安定には直結しません。

エネルギー関係者の間では、湾岸のLNG施設の修復には数年単位の時間を要するとの見方が広がっています。
そのため、長期的なLNG供給制約は避けられない見通しです。
また、赤沢大臣は4月3日の会見で、原油に加えナフサを含む石油製品については、備蓄の放出や代替調達により必要量を確保すると述べました。

バブ・エル・マンデブ海峡が示す新たな危険

ホルムズ海峡だけでも十分に重大です。
しかし、事態をさらに複雑にしているのが、バブ・エル・マンデブ海峡の問題です。
この海峡は紅海の出口にあたり、ヤンブー港からの迂回ルートが通過します。

そのため、ここが封鎖されれば、石油の代替調達ルートそのものが遮断されます。
つまり、ホルムズ回避策として想定していた輸送経路が成り立たなくなります。
石油国家備蓄の追加放出が必要になる背景には、この二重の海上リスクがあります。

3月25日には、イランの軍関係者が、米国の地上攻撃があればバブ・エル・マンデブを封鎖する可能性があると述べました。
さらに、イエメンの親イラン武装組織フーシ派を通じた封鎖が現実味を帯びています。
一方で、海峡封鎖が現実になれば、日本の代替調達戦略は大きく揺らぎます。

5月以降の見通しと政府の回復シナリオ

政府関係者によれば、5月には代替調達によって、前年の6割程度まで回復できる見通しです。
この見通しは、危機の長期化を前提にした調達計画の一部です。
また、経産省は中東依存の低下を急いでいます。

経産省の細川審議官は、中東外からの4月調達量が通常の2倍となる月間90万キロリットルになると説明しました。
そのうち30万キロリットルは米国産です。
実際に、調達先の多角化はすでに始まっています。

しかし、専門家の見方はなお慎重です。
久谷研究理事は、「量という面では、中東の原油をすべて置き換えられる国はない」と指摘しています。
そのため、政府が描く回復シナリオには不確実性が残ります。

政府は、備蓄放出と代替調達を組み合わせることで、来年の年明けまでの原油確保にめどを立てたとされています。
一方で、この計画が実現するかどうかは、バブ・エル・マンデブ情勢と米国の仲介交渉の行方に大きく左右されます。
つまり、石油国家備蓄の追加放出は、単独では完結しない政策なのです。

日本のエネルギー戦略が直面する課題

今回の局面で明らかになったのは、日本の脆弱性です。
それは備蓄量の多寡だけではなく、輸送路、代替供給、そしてLNG依存を含む複合的な問題です。
さらに、危機が長引けば価格対策と産業維持の両立も難しくなります。

しかし、政府には選択肢がまったくないわけではありません。
石油国家備蓄の追加放出、中東外からの代替調達、補助金、そして需要抑制策を組み合わせる余地があります。
そのため、今後の政策判断は速度と実効性が問われます。

一方で、LNGの代替不能という問題は残り続けます。
また、海上ルートがさらに不安定化すれば、原油の代替調達も限界に近づきます。
こうした中、日本のエネルギー戦略は、備蓄依存から供給網再構築へと軸足を移す必要があります。

今後の焦点は明確です。
5月以降に石油国家備蓄の追加放出へ実際に踏み切るのか。
さらに、原油、LNG、LPG、ナフサを含む全体の供給体制をどう立て直すのかが問われます。

ソース

経済産業省
JETRO
フィナンシャル・タイムズ
Yahoo!ニュース
TBS NEWS DIG
住商グローバル・リサーチ
グローバルSCM関連情報

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