盛り土対策はなぜ進まないのか 総務省調査で半数未実施が判明

盛り土の災害防止対策が、全国の対象箇所の半数でいまだ実施されていないことが、総務省行政評価局の最新調査で明らかになりました。
総務省行政評価局は、盛り土に関する追加調査の結果を、2026年4月22日に公表しました。

今回の公表は、2021年度に行った「盛り土総点検」の後、各地で対策がどこまで進んだのかを確認したものです。
そのため、制度を整えただけで終わらず、現場で実際に対策が進んでいるかを問う内容になっています。

さらに今回の調査は、513カ所のうち254カ所で対策が未実施という具体的な数字を示しました。
つまり、総点検から数年がたった今も、半数で必要な災害防止対策が終わっていない実態が浮かび上がりました。

熱海土石流が全国対策の出発点になった

発端となったのは、2021年7月3日に静岡県熱海市伊豆山地区で発生した大規模土石流です。
この災害では、違法な盛り土が崩壊要因の一つとされ、28人が犠牲になりました。

この熱海土石流を受けて、国は2021年度に全国の盛り土を対象に「盛り土総点検」を実施しました。
一方で、この総点検によって、排水設備の設置や法面の安定化など、必要な災害防止措置が確認できなかった盛り土が、全国で513カ所あることも明らかになりました。

ここでいう法面とは、盛り土や切り土でできた斜面のことです。
また、排水設備とは、雨水を外へ流して地盤のゆるみを防ぐ設備を指します。

盛土規制法が施行されても課題は残った

熱海土石流の後、危険な盛り土を包括的に規制するため、「宅地造成及び特定盛土等規制法」が整備されました。
この法律は一般に、盛土規制法と呼ばれます。

盛土規制法は2023年5月26日に施行されました。
この法律によって、都道府県などは、危険な盛り土に対する規制や監視の権限、そして責務を持つことになりました。

しかし、法律ができれば直ちに現場の問題が解決するわけではありません。
こうした中で、各自治体では区域指定や監視体制の整備を進めながら、本格運用へ移る作業が続いてきました。

総務省が追加調査を行った理由

総務省行政評価局は、総点検で問題が指摘された盛り土への対応状況を把握するため、2025年7月から2026年4月にかけて追加調査を行いました。
対象になったのは、盛り土総点検で「災害防止措置が確認できなかった盛り土」が存在するとされた31都府県です。

この追加調査では、自治体に対して複数の項目を確認しました。
つまり、総点検で把握した盛り土が、その後どうなったのかを一つずつ追跡した形です。

確認した主な内容は、513カ所の現状です。
また、排水設備、擁壁、法面保護などの災害防止対策の実施状況も調べました。

さらに、行政指導や命令に対して事業者がどう対応しているかも確認しました。
実際に、対策が進んでいない場合には、その理由や障害になっている要因についても整理しました。

そのうえで、総務省は2026年4月22日付で「盛土等による災害の防止に関する調査*の結果を公表しました。
また、関係省庁にも通知を出しました。

513カ所のうち254カ所で対策が未実施

今回の追加調査で示された、513カ所の盛り土の現状は次の通りです。
数字で見ると、対策の進み具合に大きな差があることが分かります。

  • 対策が実施済み:107カ所(21%)
  • 対策を実施中:27カ所(5%)
  • 対策が不要と判断された:125カ所(24%)
  • 対策が未実施:254カ所(50%)

最も重い数字は、254カ所、50%が未実施という点です。
盛り土総点検から時間が経過した現在も、対象513カ所のうち半数で、必要な災害防止対策がまだ講じられていません。

一方で、総務省は、未対策の254カ所について、「全てが直ちに高い災害リスクを有する盛り土というわけではない」という認識も示しています。
しかし、災害時のリスクを考えれば、着実な対策の推進が求められることに変わりはありません。

対策が進まない背景に何があるのか

総務省が自治体から聴取した内容によると、盛り土対策が進まない背景には、いくつかの共通要因があります。
そのため、単に「やる気の問題」だけでは説明できない構造的な難しさも見えてきます。

まず、事業者が行政指導に応じないケースがあります。
自治体が是正や安全対策を求めても、土地所有者や盛り土の実施者が対策に消極的だったり、指導に従わなかったりするため、対策が遅れています。

次に、自治体間の連携不足があります。
盛り土の位置や関係事業者が複数の自治体にまたがる場合、情報共有や役割分担が十分でないため、対応方針の調整に時間がかかっています。

さらに、所有者の死亡や所在不明で連絡が取れないケースもあります。
実際に、土地所有者が死亡している、または連絡先が不明であるため、是正指導や手続きが進まず、自治体が対応に苦慮している事例も確認されました。

こうした中、法律や制度は整備されたものの、少なくとも今回対象となった盛り土では、十分な対策が行き届いていない実態が明らかになりました。
つまり、制度の整備と現場の実行の間に、なお大きな隔たりが残っています。

国は何を求め、自治体は何に向き合うのか

総務省行政評価局は、今回の調査結果を踏まえ、国土交通省と農林水産省に対して、自治体による早期是正に向けた取り組みを一層推進するよう求める通知を行いました。
これは、自治体だけに対応を任せるのではなく、国も制度運用を後押しする必要があるという判断です。

具体的には、都道府県や市町村が行う指導や監督に実効性を持たせるため、技術的な助言や情報提供を進めるよう求めました。
また、必要に応じて制度運用の改善も検討するよう促しました。

一方で、自治体側にも継続的な課題があります。
盛土規制法の本格運用を進めるには、現場の体制整備が欠かせません。

自治体に求められる主な課題は、次の通りです。
内容を見ると、監視だけでなく、執行や住民対応まで幅広いことが分かります。

  • 盛土規制法に基づく許可・監視体制の強化と人員確保
  • 所有者不明土地や対応困難ケースへの、代執行などを含む法的枠組みの活用
  • 住民への情報提供やリスクコミュニケーションの充実
  • 災害リスクの高い箇所の優先順位付けと、重点的な対策の実施

ここでいう代執行とは、行政命令に従わない場合に、行政が代わって必要な措置を行い、費用を後から求める仕組みです。
また、リスクコミュニケーションとは、危険性について行政と住民が情報を共有し、理解を深める取り組みを指します。

制度と現場のギャップが数字で見えた

今回の総務省の発表は、どこまで対策が進み、どこで遅れが生じているのかを示しました。
そのため、制度と現場の間に生じているギャップの一端を、具体的な数字で可視化した内容だといえます。

513カ所のうち254カ所未実施という数字は、単なる統計ではありません。
それは、点検で課題が見つかった後も、実際の改善までには長い時間と多くの障害があることを示しています。

また、法整備だけではなく、現場で実際に対策を完了させるまでをどう支えるかという課題も改めて浮き彫りになりました。
さらに言えば、盛り土対策は、防災行政の実行力そのものを問うテーマでもあります。

盛り土問題が生活圏に近い理由

盛り土は、宅地造成や開発に伴って各地に存在します。
住宅地の裏山や農地周辺、そして幹線道路沿いなど、私たちの生活圏の近くにも多く見られます。

そのため、盛り土問題は一部の特殊な地域だけの話ではありません。
一方で、ふだん目立たない場所にあるため、危険性が見えにくいという特徴もあります。

熱海のような大規模災害は頻繁に起こるものではありません。
しかし、ひとたび崩壊が発生すると、人命や生活基盤に大きな被害をもたらす可能性があります。

実際に、熱海土石流は、盛り土が崩れたときの被害の大きさを全国に突きつけました。
つまり、盛り土対策は、見えにくい危険を先回りして減らす防災そのものです。

今回の調査結果が持つ意味

今回の総務省の調査結果は、「どの程度、対策が進んでいるのか」を数字で示しました。
また、「どのような要因が対策の遅れにつながっているのか」
も事例を通じて明らかにしました。

こうした中で重要なのは、問題の存在を知るだけで終わらないことです。
国、自治体、そして地域住民が、それぞれの役割を踏まえながら、実効性のある防災対策につなげることが求められています。

盛り土対策は、制度をつくれば完了する課題ではありません。
盛り土対策を現場で動かし、完了まで持っていけるかどうかが、今後の大きな焦点になります。

ソース

  • 総務省行政評価局
  • 国土交通省(宅地造成及び特定盛土等規制法 関連資料)
  • 共同通信
  • 東京新聞デジタル
  • 山形新聞
  • 沖縄タイムス
  • 毎日新聞
  • FNNプライムオンライン
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