名古屋大学、リチウムイオン電池の発火を“自動で鎮める”画期的装置を開発

〜水も電気も使わない、新時代の「窒息消火システム」〜

■ 電池火災が増え続ける今、名古屋から新技術が登場

スマートフォン、ノートパソコン、モバイルバッテリー――現代社会を支える「リチウムイオン電池」。
しかし便利さの裏で、深刻な問題が進行しています。
名古屋大学の研究チームは、そんな電池火災のリスクを大幅に減らすため、**「自動消火装置」**というまったく新しい技術を開発しました。

この装置は水も電気も使わず、発火を自動的に検知して鎮めることができるというもの。
軽量で持ち運び可能なため、ごみ収集車、リサイクル施設、自治体の回収ボックスなどでの実用化が期待されています。

研究チームは2025年内の販売開始を目指しており、火災防止の分野で国内外から注目を集めています。


■ 増え続ける「電池が原因の火災」

東京消防庁のデータによると、2024年にはリチウムイオン電池が原因の火災が106件発生し、過去最多を記録しました。
また、製品評価技術基盤機構(NITE)の調査では、2020年から2024年のわずか5年間で、
電池搭載製品の事故が1,860件に達し、そのうち約85%が火災事故に発展しています。

さらに、全国の廃棄物処理現場でも異常事態が起きています。
2023年度には8,543件もの事故が発生し、前年度の倍以上に急増しました。

原因の多くは、使用済みのモバイルバッテリーや電子タバコなどが「普通のごみ」として捨てられ、
ごみ収集車の圧縮機や処理施設の破砕機により強い圧力や衝撃が加わることで発火するというものです。

特に、内部の電解液が空気中の酸素と反応して発火・爆発を起こすため、
一度燃え始めると通常の水では逆に危険な場合もあり、現場対応が難しい課題となっていました。


■ 名古屋大学が開発した「自動消火装置」の仕組み

こうした課題を解決するため、名古屋大学大学院工学研究科の石垣範和助教らの研究チームは、
窒息消火(ちっそくしょうか)」という方法を応用した装置を開発しました。

窒息消火とは、火が燃えるために必要な“酸素”を遮断することで鎮火させる方法です。
この新装置では、固体の消火剤と**不燃性ガス(酸素を含まない安全な気体)**を組み合わせて使用しています。

火災が発生すると、装置が熱や炎を自動的に感知し、
瞬時に内部のガスと粉末消火剤を放出して周囲の酸素を奪い、炎を「窒息」させて消す仕組みです。

この方法の最大の利点は――
✅ 水を使わないため、電気製品や電池を濡らす心配がない。
✅ 電源を必要としないため、停電時でも作動可能。
✅ 人がその場にいなくても自動で作動する。

つまり、**「人の手を介さず安全に火を止める」**という点で、既存の消火技術を大きく超える仕組みなのです。


■ 実用化へ向けた連携とテスト

研究チームは、名古屋大学と連携する株式会社GOTOおよびプロ・クリエイティブ株式会社と共同で、
製品化に向けた開発を進めています。

装置は、主に以下の用途を想定しています。

  • 携帯電話・モバイルバッテリーの保管箱
  • 電子タバコなどリチウム電池を含む機器の輸送容器
  • 自治体や企業の電池回収ボックス、ごみ収集車への設置

すでに神戸市消防局や環境局の協力のもと実証実験を実施中で、
奈良県天理市や愛知県蒲郡市でも試験的な設置が行われています。

これらの実験では、実際に電池の発火を模したテストを行い、
自動消火のスピードや確実性、再発火の有無などを詳細に検証しています。

販売は2025年10月から12月の間に開始される予定で、
主に自治体や廃棄物処理業者、物流企業への導入が見込まれています。


■ 電池社会の“安全装置”としての可能性

リチウムイオン電池は、エコカーや再生可能エネルギーの普及に欠かせない存在ですが、
その安全性を確保する仕組みは、まだ十分に整っていません。

今回の名古屋大学の装置は、単なる「技術発明」にとどまらず、
持続可能な電池利用社会を実現するための重要な一歩と言えるでしょう。

研究を率いた石垣助教は次のように語っています。

「この装置は、誰もが安全に電池を使い続けられる社会を作るための小さな一歩です。
火災を“起こさせない・広げない”仕組みを広めたい。」


■ 未来のごみ箱、未来のリサイクル施設へ

今後、この技術が広がれば、全国の電池回収ボックスやごみ収集車の中に、
自動消火機能を備えた“スマートごみ箱”が普及する日も遠くないかもしれません。

電池を安全に使うことは、便利な暮らしを守ること。
名古屋大学の新発明は、まさに**「次世代の電池安全技術」**として期待されています。


ソース

・名古屋大学大学院工学研究科 石垣範和助教・研究チーム発表
・株式会社GOTO・プロ・クリエイティブ株式会社共同開発資料
・東京消防庁/製品評価技術基盤機構(NITE)統計資料

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