五輪直前でプログラム変更 フィギュア界に広がる音楽著作権問題

ミラノ・コルティナ冬季五輪を目前に控えたフィギュアスケート男子シングルで、ロシアのペトル・グメンニク選手が競技わずか2日前にショートプログラムの音楽を変更する事態となりました。

原因は、楽曲の著作権使用許可が正式に取得されていなかったことです。フィギュアスケート界では近年、音楽の著作権問題が深刻化しており、今回の出来事はその象徴的な出来事となりました。

23歳のグメンニク選手は、ロシア国内王者であり、今回は「中立選手」として五輪に出場します。シーズンを通して映画「パフューム ある人殺しの物語」のサウンドトラックで練習してきましたが、直前になって使用の正規許可が得られていないことが判明しました。

国際スケート連盟(ISU)のジェ・ユル・キム会長はこの問題について、
「これは非常に、非常に、非常に深刻な問題です」
と強い懸念を示し、「選手たちに音楽のことで心配してほしくありません」と述べています。

土壇場での楽曲変更 “ワルツ1805”へ

時間が迫る中、グメンニク選手は現在使用していた楽曲と、前シーズンに滑った映画「デューン」のサウンドトラックの両方について使用権を確保できませんでした。

最終的に選ばれたのは、エドガー・ハコビャン作曲の「ワルツ1805」です。こちらについては正式な許可を取得でき、急遽プログラムを組み直すことになりました。

ロシアメディアによると、チームが著作権問題を把握したのは、ミラノへ出発するわずか1〜2日前だったといいます。

さらに、グメンニク選手の母親は、権利保持者が「ロシア人選手に対して特に許可を取り消した」と書いてきたと報じられています。

ロシアのウクライナ侵攻以降、ロシア人選手は国際大会への参加が制限される状況が続いており、今回の問題はその国際的な緊張関係とも無関係ではない可能性があります。

他の選手も直面 孤立したケースではない

今回の問題は、決してグメンニク選手だけのものではありません。

スペインのトマス=リョレンス・グアリノ・サバテ選手は、映画「ミニオンズ」をテーマにしたプログラムで演技する予定でしたが、ユニバーサル・スタジオ側が使用をブロックしかける事態となりました。

サバテ選手はISUの「ClicknClear」という音楽管理システムを通じて8月に楽曲を提出していましたが、最終的にはアーティストに直接連絡を取り、金曜日にようやく承認を得ました。

「簡単なプロセスではありませんでした」と語りつつ、支援への感謝を述べています。

また、ベルギーのロエナ・ヘンドリックス選手も、欧州選手権後に懸念が生じたことを受け、セリーヌ・ディオンの「Ashes」(映画『デッドプール2』)から、同じくディオンの「I Surrender」に予防的に変更しました。

このように、著作権問題は大会直前の選手たちに心理的負担を与える現実的なリスクとなっています。

問題の背景 2014年の規則緩和

この問題の発端は2014年にさかのぼります。

ISUは競技の近代化を目的に、歌詞付き音楽の使用を解禁しました。それ以前は、原則としてパブリックドメインに属する楽器演奏のみが使用されていました。

歌詞付き楽曲の解禁は、演技の表現力を大きく広げましたが、その一方で、映画音楽や商業音楽の使用に伴う著作権処理の複雑化を招きました。

2022年の北京五輪では、アメリカのアレクサ・ニーリム/ブランドン・フレイジャー組が、「House of the Rising Sun」の使用をめぐって訴訟問題に発展しています。

ISUはClicknClearシステムなどを導入し、トラブル回避を試みてきましたが、今回の一連の事例が示す通り、著作権問題は依然として頻発しています

スポーツと著作権の難しい関係

フィギュアスケートは音楽と不可分のスポーツです。演技の完成度は、選曲と振付に大きく左右されます。

しかし、音楽が商業コンテンツである以上、
・著作権
・原盤権
・配信権
・国際利用許諾

といった複数の権利処理が必要になります。

五輪という世界的な放送イベントでは、放映権の問題も絡み、より厳格な許可が求められます。

選手にとっては、数年かけて磨き上げたプログラムが直前で使えなくなる可能性があるという極めて大きなリスクです。

ISU会長が「選手に音楽のことで心配してほしくない」と語った背景には、この深刻な現実があります。

今後の課題

今回の一件は、フィギュアスケート界が抱える構造的な問題を改めて浮き彫りにしました。

競技の表現力を広げるために現代音楽を取り入れる一方で、著作権処理の厳格化が選手に影響を与えるという矛盾。

今後は、
・権利処理の透明化
・許可取得の簡素化
・国際大会での統一ルール整備

が求められるでしょう。

五輪という大舞台で、選手が安心して演技に集中できる環境づくりが急務となっています。

ソース

ABC News
ESPN
AP News
ISU(国際スケート連盟)関連報道

タイトルとURLをコピーしました