人間DNA上に200種類以上の代謝酵素を発見 核内代謝システムが示すがん研究の新領域

2026年3月6日、科学誌 「Nature Communications」 に掲載された研究で、200種類以上の代謝酵素が人間のDNA上に直接存在していることが明らかになりました。

これまで科学界では、これらの酵素の多くはミトコンドリア内のみで働くと考えられてきました。
しかし今回の研究は、細胞核内部にも独自の代謝活動が存在する可能性を示しています。

この発見は、がんの成長メカニズムや治療抵抗性の理解を大きく変える可能性があります。
つまり、細胞核は単なるDNAの保存場所ではなく、代謝機能を持つ重要な制御センターである可能性が浮上しました。

代謝酵素はミトコンドリアだけという従来の常識

これまで生物学では、代謝(metabolism)は主に細胞質やミトコンドリアで行われると理解されてきました。

代謝とは、
エネルギーや細胞の材料を作る化学反応のネットワークです。

特にミトコンドリアは、細胞のエネルギーを作る場所として知られています。
そのため、多くの代謝酵素はミトコンドリア内部でのみ働くと長年考えられてきました。

しかし今回の研究は、こうした常識に大きな修正を迫る結果となりました。

クロマチン上に存在する200以上の代謝酵素

研究は、スペイン・バルセロナの
ゲノム制御センター(Centre for Genomic Regulation)の研究チームによって行われました。

研究者は以下の細胞を調査しました。

・44種類のがん細胞株
・10種類の健康な細胞(異なる組織由来)

研究チームは、クロマチンに結合しているタンパク質を分離しました。

クロマチンとは
DNAがタンパク質と結合して折りたたまれた構造のことです。

解析の結果、
クロマチン上に存在するタンパク質の約7%が代謝酵素であることが判明しました。

つまり細胞核には、独自の代謝システムが存在する可能性が示されたのです。

研究者はこれを

「核内ミニ代謝システム」

と呼んでいます。

がん細胞ごとに異なる「核内代謝指紋」

研究ではさらに、がんの種類ごとに核内酵素の構成が異なることも判明しました。

例えば、
酸化的リン酸化酵素(細胞のエネルギーを作る重要な酵素)は次の傾向が見られました。

・乳がん細胞 → 多く存在
・肺がん細胞 → ほとんど存在しない

また、患者の腫瘍サンプルでも
同様の組織特異的なパターンが確認されました。

つまり細胞や組織は、
それぞれ固有の「核内代謝指紋」を持つ可能性があります。

研究の筆頭著者である
サヴァス・コウルティス博士は次のように説明しています。

「私たちはこれまで代謝とゲノム制御を別々の世界として扱ってきました。しかし研究は両者が互いに対話していることを示唆しています」

つまり、がん細胞はこの仕組みを利用して
生存や増殖を有利に進めている可能性があります。

DNA修復を助ける核内酵素の働き

研究チームはさらに、DNA修復に関与する酵素群を発見しました。

DNAが損傷すると、
これらの酵素がクロマチン周辺に集まり修復を助けることが確認されました。

研究では
IMPDH2という酵素を用いた実験が行われました。

その結果、酵素の位置が重要であることが分かりました。

・核内に存在 → ゲノムの安定性を維持
・細胞質に存在 → 全く異なる代謝経路に関与

研究責任者の
サラ・スデルチ博士は次のように述べています。

「これらの酵素は生命に不可欠な分子を合成します。そして核内での存在はDNA修復と関係しています」

さらに博士は、
化学療法に対するがん細胞の反応にも影響すると指摘しています。

がん治療の理解を変える可能性

この発見は、がん研究に新しい視点をもたらします。

同じ遺伝子変異を持つ腫瘍でも、
治療反応が異なることがよくあります。

研究者はその理由の一つとして、
核内代謝の違いが関係している可能性を指摘しています。

つまり将来的には、

・新しい診断バイオマーカー
・治療標的となる酵素
・個別化医療

などに応用される可能性があります。

まだ解明されていない核内輸送メカニズム

今回の研究では、もう一つの疑問も浮かびました。

DNA上で発見された多くの酵素は、
核膜孔が通常通過できるサイズを超えているのです。

核膜孔とは、
細胞核と細胞質をつなぐ通路です。

そのため研究者は、
細胞が酵素を核内へ移動させるための

未知の輸送メカニズム

が存在する可能性を指摘しています。

コウルティス博士は次のように述べています。

「各酵素には固有の核機能がある可能性があるため、一つ一つ詳細に研究する必要があります」

つまり今回の発見は、
細胞生物学の新しい研究分野の出発点とも言える成果です。

ソース

Nature Communications(2026年3月6日掲載研究)
MedicalXpress
Genetic Engineering & Biotechnology News
Bioengineer.org

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