西海岸の河床に自生する小さな野生植物が、気候変動を乗り越えるのに十分な速さで進化した自然種として記録された初めての事例となりました。
この研究は、学術誌Scienceに発表された研究成果です。
これまで「進化的救済」と呼ばれる現象は理論や実験室研究で議論されてきました。しかし、野生環境の中でその過程を完全に記録した例はありませんでした。
今回の研究は、気候変動時代において野生生物がどの程度適応できるのかを理解する重要な手がかりになります。一方で、すべての個体群が生き残るわけではないことも示されました。
8年間にわたる野生個体群の追跡調査
研究チームは、オレゴン州、カリフォルニア州、メキシコにまたがる19のベニバナミゾホオズキ(Mimulus cardinalis)の個体群を調査しました。
調査期間は8年間です。
この植物は河川沿いなどに生育する野生植物で、気温や水分条件の影響を受けやすい特徴があります。そのため、気候変動に対する適応能力を調べる研究対象として選ばれました。
この追跡期間には、2012年から2016年まで続いたカリフォルニア州の深刻な干ばつが含まれています。
この干ばつは、研究者の間で1万年以上で最も極端な干ばつの一つと呼ばれる規模でした。
つまり研究チームは、極端な気候ストレスの中で植物がどのように変化するかを観察できたことになります。
進化の速さが生存を分けた
研究の結果、高温で乾燥した条件に有利な遺伝的変異へのシフトが大きかった個体群が回復しました。
一方で、遺伝的変化が少なかった個体群は減少し、中には絶滅したものもありました。
この結果について、コーネル大学の植物生物学助教授であり研究の筆頭著者であるダニエル・アンステット氏は次のように説明しています。
「基本的に私たちが発見したのは、回復した個体群が最も速く進化した個体群でもあるということです」
つまり今回の研究では、個体群の回復と進化速度が直接結びついていたことが明らかになりました。
「進化的救済」とは何か
研究の中心となる概念が進化的救済(Evolutionary Rescue)です。
これは、環境の急激な悪化に対して、種が絶滅する前に進化によって適応し、生き残る現象を指します。
これまでこの現象は主に実験室の研究で確認されてきました。しかし自然界では環境条件が複雑であるため、実際に起きているのかどうかは明確ではありませんでした。
今回の研究は、気候変動に直面する野生個体群で進化的救済を完全に記録した初めての例とされています。
さらに研究では、ゲノム全体にわたる遺伝的変化と個体群回復の関係も確認されました。
全ゲノム解析が明らかにした適応の仕組み
研究チームは、55の個体群を対象に全ゲノム配列解析を実施しました。
全ゲノム解析とは、生物の持つすべての遺伝情報を解析する手法です。
この分析により、研究者たちは気候に関連する遺伝子座を特定しました。
そして、干ばつ期間中に対立遺伝子の頻度がどのように変化したかを追跡しました。
対立遺伝子とは、同じ遺伝子でも少し異なる型のことです。
環境に適した型が増えることで、個体群はより生存しやすくなります。
今回の研究では、この遺伝的変化が植物の葉にある気孔に関係する可能性が示されました。
気孔とは、植物の葉にある炭素の吸収と水分の放出を調整する微小な孔です。
乾燥環境では、この仕組みが生存に大きく影響します。
ただし、具体的にどの遺伝子が関与しているのかはまだ特定されていません。
遺伝的多様性が生存の鍵だった
研究では特に3つの個体群が良好な結果を示しました。
これらの個体群は、気候関連遺伝子の多様性が高い状態で干ばつを迎えていたことが分かりました。
遺伝的多様性とは、集団の中にさまざまな遺伝型が存在する状態です。
多様性が高いほど、環境が急激に変化した場合でも、その変化に適応できる個体が存在する可能性が高くなります。
実際に、こうした個体群は干ばつ後に回復しました。
一方で、遺伝的多様性が低い個体群は適応能力が低く、中には完全に消滅したものもありました。
この結果は、遺伝的多様性が生存の鍵であることを示しています。
研究が示した希望と警告
今回の研究結果には、希望と慎重さの両方が含まれています。
この研究プロジェクトは、干ばつが発生する数年前の2010年に開始されました。
長期観測によって、研究者たちは進化的救済の成功と失敗の両方を確認できました。
アンステット氏は次のように述べています。
「これは本当に成功と失敗の物語です。さまざまな戦略が生まれ、その中には他より成功したものもありました」
さらに彼は、進化についてこう語っています。
「進化には先見性はありません。重力がプロセスであるのと同じように、進化もプロセスなのです」
つまり、進化は未来を予測して起こるわけではありません。
偶然の遺伝的条件や環境の変化が重なった結果として生じる現象です。
気候変動時代の生物保全への示唆
今回の研究は、気候変動の中でも生物が適応できる可能性を示しました。
しかし同時に、適応が保証されるわけではないことも明らかになりました。
生物が進化的救済を起こすためには、
十分な遺伝的多様性が存在することが重要です。
つまり、個体数だけでなく、遺伝的多様性を守ることが生物保全にとって極めて重要になります。
気候変動が進む中で、野生生物が生き延びるかどうかは、こうした遺伝的資源の豊かさに大きく左右される可能性があります。
今回の研究は、自然界の進化が気候変動にどこまで対応できるのかを示す重要な実証例となりました。
ソース
Science
phys.org
University of British Columbia
Cornell University

