経済産業省は3月23日、3月20日時点の石油備蓄量が国内需要の241日分に当たると公表しました。
政府は、2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃を発端とする、ホルムズ海峡の事実上の封鎖に対応しています。
そのため、日本は過去最大規模の石油備蓄放出と、原油調達先の多様化を同時に進めています。
経産省は、現時点について、「節約をお願いする段階には至っていない」と説明しています。
つまり、足元では石油備蓄に一定の余力があります。
しかし一方で、備蓄放出だけで状況を乗り切れるかは、なお慎重に見極める必要があります。
政府が備蓄放出に踏み切った背景
今回の対応の出発点は、2月28日の米国・イスラエルによるイラン攻撃です。
これを受けて、ホルムズ海峡は事実上封鎖された状況になりました。
そのため、日本のエネルギー安全保障は一気に緊張を高めました。
日本は原油輸入の大半を中東に依存しています。
また、その多くがホルムズ海峡を通過します。
つまり、この海峡の機能低下は、日本の原油供給そのものを揺さぶる問題です。
高市首相が示した単独放出の方針
高市早苗首相は3月11日の記者会見で、IEAの協調行動に先駆け、日本が単独で石油備蓄を放出する方針を表明しました。
ガソリンなどの石油製品の供給に支障が出ないようにすることが狙いです。
こうした中、政府は迅速な初動対応を優先しました。
首相は、「民間備蓄15日分を放出するとともに、当面1か月分の国家備蓄も放出する」と述べました。
この石油備蓄放出の合計量は、約8,000万バレルです。
これは国内消費45日分相当で、過去最大規模となります。
民間備蓄の放出はすでに開始
政府方針を受け、3月16日には民間備蓄の放出が始まりました。
実際に、石油精製業者などに課している備蓄義務量を、70日から55日に引き下げました。
そのため、民間部門から市場への供給余力を広げる動きが始まっています。
一方で、国家備蓄の放出は3月下旬から順次行われる見通しです。
民間備蓄と国家備蓄を組み合わせることで、供給不安の緩和を急ぎます。
さらに、石油備蓄の運用を段階的に進めることで、急激な混乱を避ける狙いもあります。
IEA協調放出と日本政府の受け止め
日本の単独対応に続き、IEA加盟32カ国も4億バレルの協調放出で合意しました。
IEAは国際エネルギー機関のことで、主要消費国がエネルギー危機に連携して対応する枠組みです。
つまり、今回の危機は日本だけでなく、国際社会全体が対応する局面に入っています。
日本の外務省は、このIEAの決定を歓迎する声明を発表しました。
また、国際協調が進むことで、市場心理の安定も期待されます。
しかし、現実の物流と供給が改善するまでには時間差があります。
石油備蓄241日分でも安心し切れない理由
経産省は、3月20日ごろを過ぎると、ホルムズ海峡を抜けて日本へ来る船がいなくなると説明しています。
この見通しは、足元の石油備蓄が十分に見えても、先行きには強い不確実性があることを示します。
そのため、石油備蓄放出はあくまで時間を稼ぐ措置です。
つまり、石油備蓄241日分という数字は重要です。
しかし一方で、それだけで供給問題が解決するわけではありません。
備蓄は非常時の防波堤ですが、恒久的な代替調達先にはなりません。
原油調達先の多様化へ日米で連携
こうした中、政府は原油調達先の多角化に動いています。
石油備蓄を取り崩すだけでは限界があるためです。
そのため、供給源そのものを分散する戦略が前面に出ています。
3月19日の日米首脳会談では、アラスカ州での原油増産に向けた日米協力と、増産分を日本が調達する意向が議題となりました。
これは中東依存を和らげる具体策の一つです。
また、危機時の輸送リスクを抑える意味でも注目されています。
アラスカ産原油に期待が集まる要因
アラスカから日本への輸送は、約12日間とされています。
これは中東からの輸送より短く、物流面で有利です。
実際に、輸送日数の短さは供給安定性の確保に直結します。
さらに、アラスカ産の中質油は、日本の既存の精製設備でも対応しやすいとされます。
中質油とは、軽すぎず重すぎない性質を持つ原油です。
つまり、日本側が大規模な設備変更なしで扱いやすい原油ということです。
経産相も供給源の分散を呼びかけ
赤沢亮正経産相も、アジア諸国に対してエネルギー供給源の多様化を呼びかけています。
これは、日本単独の問題としてではなく、地域全体の課題として受け止めていることを示します。
また、供給網の再構築を広域で進める必要性も浮かび上がります。
一方で、調達先の多様化は一朝一夕には進みません。
輸送契約、精製対応、価格条件など、現実の調整事項は多くあります。
そのため、石油備蓄放出と調達先分散の両方を同時に進める構図になっています。
ロイター報道が示した依存構造の重さ
ロイター通信によると、日本の石油の約95%が中東産です。
また、約70%がホルムズ海峡経由とされています。
こうした数字は、日本のエネルギー供給が地政学リスクに強く左右される現実を示しています。
経産省の説明では、原油船の流れが細れば、時間差で国内供給に影響が及びます。
つまり、備蓄がある今はしのげても、物流遮断が長引けば話は変わります。
そのため、今後数週間の情勢が極めて重要になります。
4月中旬にかけての供給懸念
封鎖が長期化した場合、4月中旬にかけて製油所への原油投入量が徐々に細る可能性があります。
製油所とは、原油をガソリンや灯油などの製品に加工する拠点です。
ここへの原油供給が減れば、石油製品の流通にも影響が及びます。
さらに、地域的な石油製品の品薄が深刻化する可能性も指摘されています。
全国一律ではなく、地域差を伴って不足感が強まる恐れがあります。
実際に、物流の偏りや需要の集中が起きれば、現場での混乱が先に表れる可能性があります。
日本経済への下押しリスク
大和総研は、中東産原油の輸入が10%減少するだけでも、日本経済がマイナス成長に陥るとの分析を示しました。
これは、原油供給の変化が単なるエネルギー問題にとどまらないことを意味します。
つまり、景気、物価、企業活動、家計のすべてに波及し得るということです。
石油は、発電、輸送、製造、物流を支える基礎資源です。
そのため、供給不安はコスト上昇を通じて広い分野に影響します。
さらに、消費者心理や企業の投資判断にも重しとなる可能性があります。
正念場に入った石油備蓄と調達先分散
現時点で政府は、石油備蓄241日分を確保していると示しています。
また、「節約をお願いする段階ではない」という認識も明らかにしています。
そのため、足元では即時の需要抑制策には踏み込んでいません。
しかし、石油備蓄の放出と原油調達先の分散が、供給途絶をどこまで食い止められるかは未知数です。
一方で、封鎖が長引けば、現在の余力評価は急速に変わる可能性があります。
今後数週間が、日本のエネルギー安全保障にとって正念場です。
ソース
中日新聞
ロイター通信
経済産業省
外務省
IEA
大和総研

