ペロブスカイト太陽電池とは何か|TUMが耐候性向上策を発見・劣化問題の突破口へ

TUMの研究チームが、ペロブスカイト太陽電池の耐候性向上策を発見しました。
欧州とアジアの研究機関から発表された一連の新しい研究は、ペロブスカイト太陽電池の広範な商業化を阻む最大の障壁に向き合っています。
その障壁とは、実際の気象条件下で劣化しやすいことです。

一方で、新たな製造ベンチャー企業も動き始めています。
そのため、生産コストの大幅削減も現実味を帯びてきました。
つまり、次世代の太陽電池技術が、世界中の屋根や産業用表面へ近づいています。

ペロブスカイト太陽電池とは何か

まず、ペロブスカイト太陽電池とは何かを整理します。
これは、「ペロブスカイト構造」と呼ばれる特殊な結晶構造を持つ材料を使った太陽電池です。
結晶構造とは、原子がどのように並んでいるかという設計図のようなものです。

従来の太陽電池はシリコンという半導体を使います。
半導体とは、電気を通したり止めたりできる材料です。
一方で、ペロブスカイト材料は、より簡単な製造方法で高い発電効率を実現できる点が特徴です。

さらに、この技術には大きな利点があります。
それは、薄くて軽く、柔軟なフィルムとして作れる可能性があることです。
つまり、従来の重くて硬いパネルだけでなく、建物の壁や車、さらには衣類などにも応用できる可能性があります。

しかし一方で、最大の弱点も明確です。
それが、湿気や温度変化に弱く、劣化しやすいことです。
そのため、長期間使える耐久性の確保が最大の課題となっています。

TUMなどの研究チームが劣化の仕組みを解明

ミュンヘン工科大学、つまりTUMの研究者らは、カールスルーエ工科大学、DESY、ストックホルムのKTH王立工科大学のパートナーと共同で研究を進めました。
そして今週、温度変化によって引き起こされるペロブスカイトの劣化メカニズムを、微視的レベルで解明した成果を発表しました。
微視的レベルとは、材料のごく小さな内部構造まで追う見方です。

研究チームは、内部の機械的応力によって駆動される初期の「バーンイン」段階に注目しました。
バーンインとは、使い始めの初期段階で性能が急に落ちる現象です。
この段階で、セルが相対性能の最大60%を失う可能性があることを発見しました。

微視的な綱引きが性能低下を招く

TUMの研究者であるKun Sun博士は、損失の原因について説明しています。
同博士は、「この損失を引き起こすのは、微視的な綱引きであることが明らかになりました」と述べました。
また、材料の内部に張力が生じ、構造が変化すると語っています。

さらに、「これが電力の損失につながるのです」とも述べました。
つまり、ペロブスカイト太陽電池は、温度変化そのものだけでなく、内部に生じる力の偏りによって傷みます。
こうした中、研究は劣化の根本原因をかなり細かく捉えています。

分子アンカーが結晶構造を支える

ACS Energy Lettersに掲載された関連論文では、研究チームが具体的な安定化策も示しました。
それが、PDMAと呼ばれるかさ高い有機分子です。
有機分子とは、炭素を含む分子で、材料の性質を調整しやすい特徴があります。

研究チームは、このPDMAが優れた分子「アンカー」として機能すると示しました。
アンカーとは、材料内部で構造をつなぎ止める役割を持つ支えです。
足場のように結晶構造を保持し、急速な加熱・冷却サイクルを通じてセルを安定に保つことが分かりました。

別の研究では26%超の高効率も達成

別の研究では、ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘンの研究者らが別の戦略を示しました。
研究者らは、二重分子補強戦略を開発しました。
これは、複数の分子を使って材料を補強する方法です。

この戦略によって、26%を超える電力変換効率を達成しました。
しかも、これは参照セルよりも約3%高い結果でした。
さらに、-80°Cから+80°Cの極端な温度変動にも耐えることができるとしています。

韓国でも保護層設計の前進が報告

また、韓国の韓国科学技術院、つまりKAISTの研究チームも成果を報告しました。
同チームは、有機分子でペロブスカイト結晶を補強する新しい二次元保護層設計を示しました。
二次元保護層とは、材料表面や境界面を薄く覆い、外部ストレスから守る層です。

この設計によって、効率と長期安定性の両方が改善したと報告されています。
一方で、ペロブスカイト太陽電池は効率だけ高くても実用化には届きません。
そのため、耐久性を同時に高めるこうした成果が重要になります。

製造面ではPerovion Technologiesが始動

製造面でも、大きな動きが出ています。
オランダの研究機関TNOは3月に、Perovion Technologiesを立ち上げました。
これは、ペロブスカイト太陽電池の量産を視野に入れたスピンオフ企業です。

同社は、2030年までにオランダでペロブスカイト太陽電池の世界初のロールツーロール工場を建設する計画を持っています。
ロールツーロールとは、フィルムを巻き取りながら連続生産する方式です。
実際に、新聞印刷に近い考え方で大量生産を進める技術です。

ロールツーロール方式でコスト低減を狙う

この製造プロセスは、新聞印刷に匹敵するものだと説明されています。
そのため、従来の方法よりも低コストかつ大量生産が可能になります。
また、薄くて柔軟なフィルム上に太陽電池を製造できます。

つまり、ペロブスカイト太陽電池は、硬いパネルだけに限られない可能性を持ちます。
一方で、製造コストが下がらなければ市場拡大は進みません。
こうした中、量産技術の進展は商業化の重要な柱になります。

First Solarも特許面で布石を打つ

西半球最大の太陽電池メーカーであるFirst Solarも、2月に動きました。
同社は、英国拠点のOxford PVと特許ライセンス契約を締結しました。
これにより、世界で最も強力なペロブスカイト特許ポートフォリオの1つにアクセスを獲得しました。

この契約は、米国市場向けのペロブスカイトデバイスの開発と潜在的な製造をカバーしています。
さらに、First Solarは薄膜技術の研究開発に5億ドル以上を投資しています。
また、オハイオ州ペリーズバーグのキャンパスには、専用のペロブスカイト開発ラインを設置しています。

技術進歩があっても耐久性の壁はなお厚い

しかし、技術的な進歩がそのまま実用化を意味するわけではありません。
実験室での性能と、数十年にわたる実地での耐久性との間のギャップが、依然として中心的な課題です。
ペロブスカイト太陽電池の本格普及には、この差を埋める必要があります。

従来のシリコンパネルは、25〜30年持続します。
一方で、ペロブスカイト電池はこれまで数年以内に劣化してきました。
つまり、長期使用への信頼性がなお問われています。

中国では大面積ミニモジュールでも成果

それでも、進歩のペースは加速しています。
中国科学院青島生物能源・生物過程研究所の研究者らは最近、結晶溶媒和物シード技術を用いた成果を示しました。
これは、結晶を安定して育てるための種のような役割を持つ技術です。

この技術によって、スケーリングによる損失を最小限に抑えた23.15%の効率を持つ大面積ペロブスカイトミニモジュールを実証しました。
スケーリングとは、実験室サイズからより大きなサイズへ広げる工程です。
その成果は、Nature Synthesisに発表されました。

実験室だけではなく季節のストレスに耐えられるか

TUMのピーター・ミュラー=ブッシュバウム教授は、実用化に向けた条件を明確に述べています。
教授は、「これらの電池をすべての屋根に載せたいのであれば、実験室で性能を発揮するだけでなく、季節のストレスに耐えられることを保証しなければなりません」と語っています。
この指摘は、ペロブスカイト太陽電池の現在地を端的に示しています。

つまり、研究開発の焦点は単なる高効率競争ではありません。
季節変動、温度差、長期運転に耐える実装技術まで含めて勝負が決まります。
さらに、製造コストと量産体制の整備も欠かせません。

商業化の鍵は耐候性と量産の両立

ここまでの流れを見ると、ペロブスカイト太陽電池の商業化には二つの条件があります。
一つは、実際の気象条件下でも劣化しにくいことです。
もう一つは、低コストで大量生産できることです。

欧州とアジアの研究機関は前者に取り組んでいます。
一方で、製造ベンチャーや大手メーカーは後者を押し進めています。
そのため、研究と産業の両面が同時に前進している点が今回の重要な特徴です。

ペロブスカイト太陽電池は次の主役になれるか

ペロブスカイト太陽電池は、軽く、薄く、柔軟に作れる可能性があります。
また、高効率化でも大きな伸びしろを見せています。
しかし、耐久性の壁を越えなければ、本格普及には届きません。

実際に、TUMの研究チームが示した分子アンカーの考え方は、その壁を崩す有力な手段として注目されます。
さらに、製造面ではロールツーロール方式がコストの壁を下げようとしています。
こうした中、ペロブスカイト太陽電池は、研究段階から実装段階へ一歩ずつ進んでいると言えます。

ソース

TUM
カールスルーエ工科大学
DESY
KTH王立工科大学
ACS Energy Letters
ルートヴィヒ・マクシミリアン大学ミュンヘン
KAIST
TNO
Perovion Technologies
First Solar
Oxford PV
中国科学院青島生物能源・生物過程研究所
Nature Synthesis

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