
投稿日:2025年7月29日|出典:artcentron.com 他
7月27日、ロンドンのアポロ・アート・オークションにて、古代エジプトのバッタ型の化粧品容器が**34万ポンド(約7,100万円)**で落札されました。この容器を巡っては、「1920年代にツタンカーメン王の墓から盗まれた可能性がある」との疑念が再燃しており、専門家やエジプト当局から強い批判が噴出しています。
物議を醸す「バッタ容器」の由来
この容器は、**象牙と木で作られた全長約3.5インチ(約9センチ)**の精巧な美術品で、約3,300年前のものとされています。
その出自は、1922年にツタンカーメン王の墓を発見したイギリスの考古学者ハワード・カーターにまで遡ります。
アポロ・オークションの説明によれば、カーターはこの容器をエジプト人ディーラーモーリス・ナーマンに密かに売却。ナーマンは1936年にニューヨークのディーラージョセフ・ブルンマーへ転売しました。その後、著名コレクターアラステア・ブラッドリー・マーティンを経て、近年はカタール王族の故シェイク・サウド・アル=サーニーの遺産コレクションの一部となっていました。
保存状態と様式が「ツタンカーメンの遺物」を示唆
ドイツ・アウグスト・ケストナー博物館のキュレーターであるクリスチャン・ルーベン氏は、「このバッタ容器はツタンカーメンの墓に由来する可能性が極めて高い」と述べています。
彼によると:
- 格子模様の翼にはわずかな損傷しかなく、卓越した保存状態
- ファラオ時代の様式と完全に一致
- 墓室内で密閉されていたことによる劣化の少なさ
これらの点が、発掘された正当な遺物であることを強く示唆しています。
オークションハウスの反論とクリアランス
販売を実施したアポロ・アート・オークションは、「この品が不正に入手されたという証拠は存在しない」と主張しています。
同社は以下のように説明しています:
- 1930年代に正式にエジプトから輸出された記録がある
- ユネスコの1970年条約やエジプト1983年古物法以前の取引
- アート・ロス・レジスターによるクリアランス証明書も取得済み
ただし、大手オークション会社であるクリスティーズやサザビーズは、この容器の出自の複雑さを理由に過去に販売を拒否していたと報じられています。
墓からの盗品疑惑の根拠:未公開書簡と過去の返還事例
バッタ容器がツタンカーメンの墓から盗まれたという疑いを強めているのが、1934年の未公開書簡です。
著名な言語学者アラン・ガーディナーは、ハワード・カーターに宛てた手紙の中で、「このバッタ容器は間違いなく墓から盗まれたものだ」と記しています。
さらに、メトロポリタン美術館は2010年に「ツタンカーメン王の墓に由来すると確認された19点の遺物」をエジプト政府に返還した経緯もあります。
このバッタ容器の歴史における重要な転機となったのが、1978年出版のトーマス・ホーヴィング元館長の著書『ツタンカーメン:語られざる物語』で、この中で本容器の存在が「王の墓と関係している」と初めて公に言及されました。
美術品取引の倫理が問われる時代
この容器の販売は、世界の博物館や収集家たちが直面している文化遺産の出自と展示の倫理問題を改めて浮き彫りにしました。
考古学的価値があるとされる品々が市場に流通する過程で、正規な発掘か盗掘かを判断する証拠が曖昧なまま取引されるケースは後を絶ちません。
今後、このような物品の扱いについて、さらなる議論が国際的に求められることは間違いないでしょう。

