スマホソフトウェア競争促進法をやさしく解説 アップルとグーグルに新ルール そのメリットと心配ポイント

2025年12月に「スマホソフトウェア競争促進法」という新しい法律が全面施行されます。 通称はスマホ新法です。スマートフォンの世界を長年支配してきたアップルとグーグルに対して、新しいルールを課す法律です。

この法律のねらいを一言でまとめると、次のようになります。

アップルとグーグルが独占しているスマホの基本ソフトやアプリストアなどの分野に競争を持ち込み、ユーザーの選択肢を増やそうとしている。 ただしその代わりに、セキュリティの低下や青少年保護の弱体化、操作の複雑化、アプリ開発者の負担増など、新しいリスクも同時に生まれてしまう可能性がある。

この記事では、法律の中身をできるだけ専門用語をかみ砕きながら説明しつつ、どこがメリットで、どこが心配なのかを整理します。

  1. 1 この法律でいちばん大事なポイント
  2. 2 スマホ新法の基本情報
    1. 2 1 正式名称と施行時期 監督する役所
    2. 2 2 どのソフトとどの企業が対象か
    3. 2 3 「やってはいけないこと」と「やらなければならないこと」
    4. 2 4 罰則 最高30パーセントの課徴金
  3. 3 法律が目指している「良い面」
    1. 3 1 寡占状態の是正と囲い込みの緩和
    2. 3 2 国産サービスや中小アプリへのチャンス
    3. 3 3 ユーザーにとっての理論的なメリット
  4. 4 セキュリティと青少年保護のリスク
    1. 4 1 サイドローディングとは何か どこが危ないのか
    2. 4 2 ストア審査の質がバラバラになる心配
    3. 4 3 ブラウザエンジン開放とフィルタリングの崩れ
    4. 4 4 プライバシー保護とデータの流れが見えにくくなる
  5. 5 ユーザー体験の複雑化と見えにくい負担
    1. 5 1 選択肢が増えることは本当に良いことだけか
    2. 5 2 何かあったときに誰に責任を求めるのか
  6. 6 中小アプリ事業者への負担
    1. 6 1 対応しなければならないことが増え続ける
    2. 6 2 ストア全体の信頼低下がまじめな開発者まで巻き込む
  7. 7 規制の実効性と国際ルールとの関係
    1. 7 1 セキュリティを理由にルールを回避される可能性
    2. 7 2 公正取引委員会がどこまで技術的に追いつけるか
    3. 7 3 本当に競争は起きるのか
  8. 8 国際的な動きの中で見たスマホ新法
    1. 8 1 EUやアメリカとの関係
    2. 8 2 日本市場の優先度
  9. 9 これから数年で注目すべきポイント
    1. 9 1 最終的なガイドラインと「正当化事由」
    2. 9 2 アップルとグーグルの具体的な動き
    3. 9 3 国産サービスと中小開発者の動き
    4. 9 4 実際にどんなトラブルが起きるか
  10. 10 まとめ スマホ新法は「理想」と「リスク」を同時に抱えた法律
  11. ソース

1 この法律でいちばん大事なポイント

最初に全体像を押さえておきます。スマホ新法による大きな変化は、おおよそ次のようなものです。

  • サイドローディングや外部アプリストアが広がり、便利さと引き換えにマルウェアや詐欺アプリのリスクが高くなるおそれ
  • ブラウザエンジンの開放によって、青少年向けフィルタリングが十分に効かなくなる心配
  • 選択肢が増えることで、設定画面や課金形態が複雑化し、サブスクの解約忘れや分かりにくい料金表示などのトラブルが増える可能性
  • 中小規模のアプリ事業者に、複数ストア対応や複数決済対応などのコストが重くのしかかる懸念
  • アップルやグーグル自身が、ストアの安全性や品質管理にかける力を弱めざるをえなくなるおそれ
  • 売上高の20〜30パーセントという非常に重い課徴金が用意されている一方で、どこまでが「セキュリティのために必要な制限」と認められるのか線引きが難しい点
  • アンドロイドでは既に外部ストアが存在してきたのに、思ったほど競争が起きていないという現実があり、本当に期待したほどの競争が起こるのか疑問が残る点

以降では、まず法律の基本情報と仕組みを整理し、そのうえでユーザー側の視点、アプリ事業者の視点、政策全体の視点から順に見ていきます。

2 スマホ新法の基本情報

2 1 正式名称と施行時期 監督する役所

スマホ新法の正式名称は「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律」です。 記事やニュースでは、スマホソフトウェア競争促進法、スマホ新法などと呼ばれています。

法律は2024年6月に成立しました。全面施行は2025年12月18日前後とされており、「12月までに全面施行」「19日までに全面施行」と書いている資料もありますが、いずれにしても2025年末には本格的に動き始めます。

この法律を運用し、違反がないかをチェックするのは公正取引委員会です。 公正取引委員会は、独占禁止法などを通じて企業間の公正な競争を守る役割を持った機関で、ここがスマホ新法の監督官庁になります。

性格としては、すでにある独占禁止法を後ろから補強する、事前規制型のルールです。 これまでの「問題が起きてから取り締まる」スタイルではなく、「問題が起きないように前もってルールで縛る」方向に踏み込んだものと言えます。

2 2 どのソフトとどの企業が対象か

法律の対象になる「特定ソフトウェア」は、スマホの世界でも中核にあたる次の4種類だけに絞られています。

  • モバイルOS スマートフォンを動かす一番下の基本ソフトのことです。iPhoneのiOSや、アンドロイドなどが該当します。
  • アプリストア アプリを探してインストールするための店のような存在です。App Store や Google Play ストアが代表例です。
  • ブラウザ インターネットのウェブサイトを見るためのアプリです。Safari や Chrome などがこれにあたります。
  • 検索エンジン ウェブ上の情報を検索する仕組みです。Google 検索や、その他の検索サービスが含まれます。

これらのソフトを提供している企業のうち、日本国内での月平均利用者数が4000万人以上の事業者が「指定事業者」として規制対象になります。

2025年末の時点で、この条件を満たすのは実質的にアップルとグーグルの2社だけと見込まれています。つまり、この法律はほぼ両社をターゲットにした巨大プラットフォーム規制と捉えることができます。

2 3 「やってはいけないこと」と「やらなければならないこと」

スマホ新法は、大きく二つの柱で構成されています。

  • 9種類の禁止行為 指定事業者がやってはいけないことを具体的に定めたものです。
  • 5種類の遵守義務 指定事業者が積極的に取り組むべきことです。ルールの透明化などが含まれます。

禁止行為の代表例を、分かりやすく言い換えると次のようになります。

  • 外部アプリストアの参入を不当に妨げてはいけない 他社が自分のアプリストアを提供したり、ユーザーがそれを使ったりすることを、OSの仕様などを使って邪魔してはいけないということです。
  • OSの重要な機能を自社アプリだけに有利に使ってはいけない 例えば、近距離通信、音声の入出力、センサーなどの機能を、自社アプリだけが便利に使えるようにして、他社には開放しないといった行為が問題になります。
  • アプリ内課金で自社の決済システムだけを強制してはいけない アプリ開発者が外部の決済サービスや自前の決済を使いたいときに、それを不当に制限したり、ウェブ経由の課金を妨げたりしてはいけない、という内容です。
  • 検索や表示の順番で自社サービスを不当に優遇してはいけない 検索結果や表示の順番を、自社サービスが有利になるように操作する行為を制限します。
  • プラットフォーム上で得た他社の情報を、自社サービスの優遇のために不当に使ってはいけない 例えば、自社ストアの売上データを使って他社の人気アプリのビジネスを真似し、競合アプリでつぶしにかかるといった行為がイメージしやすいでしょう。

一方、遵守義務の代表例は次の通りです。

  • ルールや手数料、審査基準などを分かりやすく開示すること
  • デフォルトアプリの変更方法やアンインストール方法を分かりやすくして、ユーザーの選択の自由を確保すること
  • 毎年、公正取引委員会に対してルール遵守状況などの報告書を提出すること

公正取引委員会は2025年5月に、違反となる行為と適法な行為の典型例を約110件まとめた運用指針案を公表し、意見募集も行いました。ここで重要になるのが、セキュリティ確保などを理由に制限が認められる「正当化事由」の扱いです。 どこまでなら安全のために仕方がない制限と認めるのか、どこからが競争を妨げる不当行為とみなすのか、この線引きが今後の大きな論点になっています。

2 4 罰則 最高30パーセントの課徴金

スマホ新法に違反すると、まず行為をやめさせるための排除措置命令が出される可能性があります。さらに、経済的なペナルティとして課徴金が科される場合があります。

課徴金は、日本国内における対象分野の売上高の20パーセントが基本です。 同じような違反を繰り返した場合は、30パーセントまで引き上げられます。

参考までに、従来の独占禁止法の課徴金率はおおむね10パーセント前後です。それと比べると、スマホ新法の課徴金はかなり高く設定されています。巨大なプラットフォーム企業に対して、ルールを守らないと大きな痛手になるという強いメッセージを出していると言えます。

3 法律が目指している「良い面」

ここからは、懸念点に入る前に、この法律が何を良い方向として目指しているのかを整理します。

3 1 寡占状態の是正と囲い込みの緩和

スマホの世界では、OSやアプリストア、ブラウザ、検索エンジンといった重要な部分が、ほとんどアップルとグーグルの2社に集中しています。こうした状態を「寡占」と呼びます。

例えば、iPhoneでは標準ブラウザがSafari、標準検索が特定の検索エンジンに固定されており、アプリストアもApp Storeだけです。アンドロイド側でも、Google PlayやGoogle 検索の存在感が圧倒的です。

スマホ新法は、このような環境で長年続いてきた「囲い込み」を緩めたいという狙いがあります。 ユーザーが簡単にデフォルトアプリや検索エンジンを変更できるようにし、他のアプリストアやブラウザ、検索サービスも参入しやすくすることで、競争を促していこうという考えです。

3 2 国産サービスや中小アプリへのチャンス

これまで、アップルやグーグルのルールや手数料、OS機能の制約によって、新しい国産サービスや中小アプリ事業者が不利だと感じるケースが多くありました。

スマホ新法で自己優遇行為が抑えられ、OS機能やAPIが公平に利用できるようになれば、国内企業によるブラウザ、検索エンジン、決済サービス、新しいアプリストアなど、さまざまなサービスが生まれる余地も広がります。

日本経済新聞などの報道では、スマホ新法をきっかけに「アップルやグーグルに挑む国産プレーヤーが本気で出てくるかどうか」が一つの見どころとされています。

3 3 ユーザーにとっての理論的なメリット

ユーザー側から見た理論上のメリットとしては、次のようなものがあります。

  • アプリの入手経路や課金方法、利用するブラウザや検索エンジンなど、多様な選択肢を持てる
  • デフォルト設定の変更がしやすくなり、自分の好みや価値観に合ったサービスを使いやすくなる
  • 手数料競争やサービス競争が生まれれば、アプリ料金が下がったり、サービスの質が上がったり、新しい料金モデルが登場したりする可能性がある

とはいえ、これはあくまで「うまくいった場合の理想像」です。現実には、次の章以降で見ていくように、さまざまなトレードオフや副作用が懸念されています。

4 セキュリティと青少年保護のリスク

4 1 サイドローディングとは何か どこが危ないのか

スマホ新法に対して、最も強く懸念されているのがサイドローディングと外部アプリストアに関する部分です。

サイドローディングとは、公式のアプリストア以外からアプリを入れることです。 アンドロイドでは以前から設定を変えれば可能で、ウェブサイトから直接アプリファイルをダウンロードしてインストールするケースなどがこれにあたります。 iPhoneでは基本的にApp Store以外からのインストールはできないように制限されてきました。

外部ストアやサイドローディングが一般的になると、次のようなリスクが高まると指摘されています。

  • 審査が不十分なアプリが簡単に配布され、品質や安全性が保証されない
  • ウイルスを仕込んだアプリや、個人情報を盗み取るアプリ、勝手に高額な課金を行うアプリなどが紛れ込みやすくなる
  • インストール元が多様化するため、ユーザーが「どこまで信用してよいのか」を判断しづらくなる

グーグル自身の調査でも、アンドロイド向けマルウェアの多くが、公式のPlayストアではなくサイドローディング経由で入ってきているとされています。アップルも、公正取引委員会に提出した意見書の中で、サイドローディングによるマルウェアや詐欺、プライバシー侵害のリスクを強く訴えています。

4 2 ストア審査の質がバラバラになる心配

現在は、おおまかに言うと「App Store や Google Play がしっかり審査したアプリだけが公式に配布される」「OS側でもサンドボックスや保護機能が働く」という二重の安全網があります。

ここに、審査基準の違う外部ストアが多数参入すると、ストアごとに安全性がバラバラになります。 中には、開発者を集めるために審査を意図的に緩くし、「何でもOKです」という売り方をするストアが出てくる可能性もあります。

そうなると、ユーザー目線では「安全なストア」と「危険なストア」を自分で見分けなければならず、結果的にストア全体への信頼が下がるおそれがあります。

さらに、アップルやグーグル自身も、規制対応や多ストア環境への対応に追われれば、これまで以上のリソースを審査や不正対策に回すことが難しくなるかもしれません。 この場合、公式ストアの品質管理や不正対策にも影響が出る可能性があります。

4 3 ブラウザエンジン開放とフィルタリングの崩れ

スマホ新法はブラウザについても、特定のエンジンだけを強制するのではなく、他のエンジンを使ったブラウザも参入しやすくする方向と理解されています。

ブラウザエンジンとは、ウェブページを表示する中身のプログラムです。 iPhoneではSafariの中身であるWebKitが事実上標準となっており、フィルタリングサービスもこの前提で作られているケースが多くあります。

別のエンジンを使うブラウザが増えると、既存のフィルタリングサービスが対応できず、青少年向けのスマホであっても、有害サイトや違法コンテンツへのアクセスが遮断できなくなるケースが出るのではないかと懸念されています。

一部の有識者は、フィルタリング対策が十分に整うまでは、青少年向けの端末についてスマホ新法の適用を一時的に除外すべきだと提案するなど、非常に慎重な意見も出ています。

4 4 プライバシー保護とデータの流れが見えにくくなる

ストアが増え、決済事業者も増え、ブラウザや検索エンジンも多様になると、個人情報や行動履歴がどの経路でどの企業に渡っているのか、ユーザーにはますます分かりにくくなります。

これまで、アップルやグーグルは「自社プラットフォームをしっかり統制することでプライバシーを守る」と主張してきました。 しかしスマホ新法によって、「統制を弱めながらプライバシーも守りなさい」という難しい課題を同時に求められることになります。

その結果、「選択肢は増えたけれど、誰がどこまで責任を持っているのか分からない」「自分のデータがどこに流れているのか見えにくい」という新しい不安が増える可能性があります。

5 ユーザー体験の複雑化と見えにくい負担

5 1 選択肢が増えることは本当に良いことだけか

政府の広報などでは、「ユーザーが自由に選べるようになる」という点が強調されています。 確かに、選択肢が増えること自体はプラスです。しかし、専門家やジャーナリストの間では、「選べるようになることと、実際に安全に選べることは別問題だ」という指摘も多くあります。

ストア、決済方法、ブラウザ、検索エンジンなど、ユーザーが判断すべき項目が増えれば増えるほど、必要な情報を理解し、注意深く選択する能力が求められます。

その結果として、例えば次のようなトラブルが増えるのではないかと懸念されています。

  • 解約手続きが分かりにくいサブスクリプションに知らないうちに加入し、長期間課金され続ける
  • 料金表示やボタン配置が意図的に分かりにくくされている、いわゆるダークパターンに引っかかる
  • 表向きは無料だが、裏で過剰なトラッキングや高額課金が行われているサービスを選んでしまう

アップルが提出した意見書を読み解いた記事などでも、「選択肢が増える代償として安全性やプライバシー、青少年保護が損なわれるのなら、それは本当にユーザーの利益と言えるのか」という強い疑問が投げかけられています。

5 2 何かあったときに誰に責任を求めるのか

これまでは、iPhoneなら「App Storeで入れたアプリなら、まずアップルの責任やサポートに期待する」、Androidなら「Playストア経由のアプリなら、グーグルのポリシーや保護機能が働く」といった形で、問題が起きたときに頼る先が比較的はっきりしていました。

しかし今後、外部ストアや外部決済、外部ブラウザ、外部検索が混在するようになると、トラブル時の責任の所在が分かりにくくなります。

  • 決済トラブルが起きたとき、それはストアの責任なのか、アプリ提供者なのか、決済事業者なのか
  • 個人情報流出や不正利用があったとき、アプリなのか、ストアなのか、OSなのか、ブラウザなのか
  • 不正アプリによる被害が出たとき、どこまで誰が補償すべきなのか

こうした境界があいまいになると、ユーザーがどこに相談すればよいのか分からず、結果として泣き寝入りするケースが増えるのではないかという懸念があります。

6 中小アプリ事業者への負担

6 1 対応しなければならないことが増え続ける

スマホ新法は一見すると「中小アプリ事業者にもチャンスを与える法律」に見えますが、実務レベルでは負担の増加も避けられません。

例えば、アプリを複数のストアで配信する場合、

  • ストアごとに異なる審査基準やガイドラインに合わせてアプリを調整しなければならない
  • 管理画面や売上レポートもストアごとに別々に確認する必要がある
  • サポートの問い合わせ窓口や返金ルールもストアごとに違うため、それぞれに合わせた対応が求められる

さらに、決済手段も複数に対応しようとすると、

  • アップルやグーグルの決済に加えて、外部決済サービスや自社決済、ウェブ決済などを組み合わせる必要が出てくる
  • 返金処理、不正利用対策、チャージバック対応、本人確認やマネーロンダリング対策など、運用の手間が大きく膨らむ

ブラウザエンジンやOS機能の開放に合わせて、動作確認パターンも増えていきます。 テスト環境も複雑になり、検証コストは確実に増えていきます。

こうした追加コストは、大企業ならまだしも、少人数で開発している中小アプリ事業者にとっては大きな負担です。結果として、「保護したいはずの中小がいちばん苦しくなる」という逆説的な状況も起こりかねません。

6 2 ストア全体の信頼低下がまじめな開発者まで巻き込む

外部ストアで詐欺アプリやマルウェアが増えると、「そのストアのアプリは危ない」というイメージがついてしまう可能性があります。

そうなると、まじめに安全なアプリを作っている開発者であっても、同じストアに並んでいるだけでユーザーからの信頼を失い、ダウンロードしてもらえないというとばっちりを受けるおそれがあります。

安全性を重視する開発者は、「公式ストア一本でいくか」「リスクを承知で外部ストアにも出すか」という難しい判断を迫られることになるでしょう。

7 規制の実効性と国際ルールとの関係

7 1 セキュリティを理由にルールを回避される可能性

運用指針案では、セキュリティ確保やプライバシー保護、青少年保護を理由とする制限については、一定の範囲で正当なものとして認める、といった整理がされています。

しかし、この範囲を狭くしすぎると安全性が損なわれ、広くしすぎると「セキュリティのため」と主張すれば何でも許されてしまう抜け穴になる可能性があります。

欧州のデジタル市場法でも、巨大プラットフォームがルールを形式的には守りながら、実際には自己優遇を続けているのではないか、という批判が続いています。 日本でも、同じような「建前は守っているが、実態はあまり変わらない」という状況になるリスクはあります。

7 2 公正取引委員会がどこまで技術的に追いつけるか

スマホ新法の運用では、OSやブラウザ、アプリストアの細かい仕様、セキュリティ対策の妥当性、API提供条件など、かなり高度な技術判断が求められます。

欧州でも、監督当局の技術リソースやスピード不足が課題になっています。 日本の公正取引委員会が、アップルやグーグルといった世界トップクラスの技術企業と対等に渡り合い、問題を早く見つけて是正させていけるかどうかは、現時点では不透明です。

7 3 本当に競争は起きるのか

アンドロイドの世界では、すでにアマゾンやサムスン、通信キャリア系などのアプリストアが存在してきましたが、利用者は限られており、Google Play の支配的な地位を揺るがすほどの競争にはなっていません。

ユーザーが「わざわざ別のストアや別のブラウザを使いたい」と思うだけの魅力やメリットがなければ、形式上は選択肢が増えても、実際にはほとんどの人が今まで通りのサービスを使い続ける可能性も高いと言えます。

その意味で、スマホ新法は「競争できる条件を整える法律」としての役割はありますが、それだけで必ず新しい競争や国産プレーヤーの台頭が起こるとまでは言えません。

8 国際的な動きの中で見たスマホ新法

8 1 EUやアメリカとの関係

欧州連合ではデジタル市場法がすでに施行されており、アップルやグーグルなどを「ゲートキーパー」と指定して、API開放や自己優遇の禁止を求めています。 アメリカでも、司法省がアップルを提訴するなど、似たような問題意識で動きが出ています。

日本のスマホ新法は、こうした国際的な流れと方向性を共有しつつ、対象を国内の利用者数4000万人以上に絞り、課徴金率を20〜30パーセントとするなど、日本独自の設計を採用しています。

一方で、世界各地でそれぞれ違うルールが乱立すると、アップルやグーグル側から見ると対応コストが非常に高くなります。 この場合、「一番厳しいルールに合わせて世界全体の仕様を揃える」か、「地域ごとに提供機能やサービス内容を変える」か、といった難しい判断を迫られます。

8 2 日本市場の優先度

日本市場は依然として重要ではありますが、世界全体の売上構成を見れば、北米や欧州、中国などと比べて相対的に小さくなりつつあります。

スマホ新法での対応コストが過大だと判断されれば、「日本向けだけ一部機能を制限する」「日本では特定のサービスを提供しない」といった判断がなされる可能性も、理論上はありえます。

実際、欧州のデジタル市場法に対応するために、アップルが欧州向けだけ特別仕様を用意するケースも出てきています。 日本市場でも「日本のユーザーだけ損をする仕様」にならないかどうかは、今後注意して見ていく必要があります。

9 これから数年で注目すべきポイント

9 1 最終的なガイドラインと「正当化事由」

2025年5月の運用指針案をもとに、パブリックコメントを踏まえて最終版のガイドラインが決まります。 特に注目されるのは、セキュリティやプライバシー、青少年保護を理由にした制限をどこまで認めるか、その範囲です。

ここが甘すぎれば法律が骨抜きになり、厳しすぎれば安全性が大きく損なわれます。 利用者の安全と競争促進を両立させる現実的なラインが引けるかどうかが、最大のポイントになります。

9 2 アップルとグーグルの具体的な動き

アップルはすでに公正取引委員会に意見書を提出し、セキュリティやプライバシー、青少年保護の観点から慎重な対応を求めています。 今後、どのような仕様変更や運用ルールを日本向けに打ち出してくるのかは、大きなニュースになるでしょう。

グーグル側も、アンドロイドやPlayストア、Chrome、Google 検索などの運用方法をどこまで変えるのかが注目されます。

9 3 国産サービスと中小開発者の動き

スマホ新法を追い風に、新しいアプリストア、ブラウザ、検索エンジン、決済サービスなどに挑戦する国産企業やスタートアップがどれだけ出てくるかも重要です。

同時に、中小アプリ開発者が「負担が大きすぎる」と感じて撤退したり、逆に大手プラットフォームへの依存を深めてしまったりしないかも、注意して見ていく必要があります。

9 4 実際にどんなトラブルが起きるか

2025年12月の施行後、サイドローディング由来のマルウェア被害、詐欺アプリや不正決済、青少年向け端末でのフィルタリング抜けなど、実際にどのようなトラブルがどれぐらい発生するのかは、これから数年かけて見ていかなければ分かりません。

警察庁、消費者庁、セキュリティ関連機関、セキュリティベンダーなどによる統計や注意喚起が、重要な情報源になっていくはずです。

10 まとめ スマホ新法は「理想」と「リスク」を同時に抱えた法律

スマホソフトウェア競争促進法は、アップルとグーグルという巨大プラットフォームの力を抑え込み、ユーザーと開発者にとってより開かれた環境を作ろうとする意欲的な試みです。

一方で、セキュリティやプライバシー、青少年保護、中小アプリの負担、規制運用の実効性など、多くのリスクも同時に抱え込んでいます。

この法律が最終的に「良い法律だった」と評価されるかどうかは、今後数年の運用しだいです。 特に次の点が鍵になるでしょう。

  • 本当に新しい競争と国産プレーヤーの台頭が生まれるか
  • マルウェアや詐欺、フィルタリング崩壊といった被害がどの程度生じるか
  • 中小アプリ事業者にとって、メリットが負担を上回ると感じられるか
  • 公正取引委員会が技術的にも人員的にも、継続的な監視と是正を実現できるか
  • 施行からおおむね3年後に予定される見直しで、どの方向に修正がかかるか

スマホ新法には、施行からおおよそ3年を目安に見直しを行う条文が含まれています。 立法時のきれいな理念だけでなく、実際に起きたトラブルや抜け穴、予想外の副作用を丁寧に拾い上げ、次の制度設計につなげていくことが、これからの議論で何より大切になっていきます。

ソース

本記事の内容は、以下の公開情報をもとに構成しています(リンク表記は省略)。

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