小野田紀美科学技術相は3月17日の記者会見で、2026年度からの5年間で、科学技術に関連する政府投資を60兆円に増やす方針を表明しました。
現行の第6期計画からみると、ほぼ倍増となる規模です。
そのため、政府の科学技術政策は大きな転換点を迎えます。
また、民間を含めた官民合計の投資目標は180兆円に引き上げます。
重点分野には、人工知能(AI)や宇宙、核融合エネルギーが並びます。
つまり、成長分野へ資金を集中させる方針が鮮明になりました。
さらに、この方針は、2026~30年度の科学技術政策の指針となる「第7期科学技術・イノベーション基本計画」に盛り込まれます。
この基本計画は、国の科学技術政策の中期方針を定める重要文書です。
今月末までに閣議決定される見通しです。
高市政権が掲げる「新技術立国」との連動
今回の投資拡大方針の背景には、高市早苗首相が掲げる「新技術立国」があります。
高市首相は2月の施政方針演説で、「強い経済の基盤となるのは、優れた科学技術力だ」と述べました。
こうした中、科学技術を成長戦略の中心に据える姿勢が明確になっています。
また、政府は3月10日に開いた第3回日本成長戦略会議で、17の戦略分野から優先支援する61の製品・技術を選定しました。
これは、政府が重点的に後押しする対象を具体化したものです。
一方で、対象分野は広く、資金配分の優先順位が今後の焦点になります。
選定された分野には、AIロボット、半導体、次世代船舶、ペロブスカイト太陽電池などが含まれます。
ペロブスカイト太陽電池とは、軽くて曲げやすい新型の太陽電池です。
実際に、先端技術を産業競争力の柱に育てる狙いが見えてきます。
成長戦略会議で示された具体的な数値目標
ロイターによると、高市首相は同会議で、「日本の勝ち筋を見出して多角的に官民投資を支援する」と述べました。
そのため、政府は単に予算を積み増すだけでなく、投資の効果も重視します。
予算編成にあたっては、経済財政への定量的な影響試算を反映するよう指示しました。
定量的な影響試算とは、政策が経済成長や雇用、産業規模にどれだけ影響するかを数字で見積もる作業です。
つまり、科学技術政策を理念だけでなく、数値で管理する姿勢を強めた形です。
さらに、成長戦略の成果を可視化しやすくする狙いもあります。
半導体分野では、国内売上高を2030年に15兆円、2040年に40兆円へ引き上げる目標も盛り込まれました。
半導体は、スマートフォンや自動車、AI機器の中核部品です。
そのため、この目標は日本の産業政策全体に直結する重要な数字といえます。
重点分野として示されたAI・宇宙・核融合
今回の方針で目立つのは、AI、宇宙、核融合エネルギーへの重点配分です。
AIは、人間の学習や判断を模した情報処理技術です。
また、宇宙と核融合も、長期的な国家競争力を左右する分野として位置づけられています。
核融合エネルギーは、太陽の内部で起きる反応を地上で再現し、電力に生かそうとする技術です。
実用化まで時間はかかります。
しかし、一方で、実現すれば次世代エネルギーの柱になる可能性があります。
宇宙分野でも、衛星、通信、観測、輸送の各領域で国際競争が激しくなっています。
こうした中、日本が研究開発と産業化を同時に進める意義は大きいです。
60兆円という政府投資の拡大は、こうした重点分野への国家的な資金投入を意味します。
消費税を巡る発言と成長投資の関係
一方、高市首相は2月25日の衆院本会議の代表質問で、消費税率の引き上げについて「政府としてさらに引き上げるということを検討している事実はない」と明確に否定しています。
この発言は、成長投資を拡大する一方で、国民負担の増加には慎重な姿勢を示したものです。
つまり、研究開発の拡充と増税回避を両立させる構図を打ち出しています。
また、消費税を巡っては、食料品を対象とした2年間限定の消費税ゼロを掲げています。
この案は、超党派の「国民会議」で夏前の中間とりまとめを目指しています。
実際に、物価高対策と税制改革を並行して議論する流れが続いています。
ただし、高市首相は国会で、「給付付き税額控除実現までのつなぎであり、終了後は現行の8%に戻す想定だ」と答弁しています。
給付付き税額控除とは、低所得者への給付と減税を組み合わせる仕組みです。
そのため、2年後に事実上の増税になるのではないかという懸念も政府内から出ています。
第6期計画の実績見通しと第7期計画の重み
現行の第6期計画では、官民120兆円の投資目標を掲げていました。
しかし、その実績は大幅に下回る見込みとされています。
この点は、第7期計画の実現性を考えるうえで避けて通れません。
研究力の低迷が続く中で、今回の新目標は非常に大きな数字です。
そのため、倍増する目標額をどう確保するかが今後の最大の課題になります。
単に目標を高く掲げるだけでは、成果には結びつきません。
また、政府投資60兆円、官民合計180兆円という規模は、予算、税制、規制改革、民間資金の呼び込みを一体で進めなければ届きにくい水準です。
一方で、日本の研究現場では、人材流出や基礎研究の弱体化も指摘されています。
さらに、重点分野に偏りすぎれば、幅広い研究基盤が弱くなる恐れもあります。
科学技術投資60兆円が問う実行力
科学技術投資60兆円という新方針は、数字の大きさだけでも強いインパクトがあります。
しかし、重要なのは、どの分野に、どの順序で、どの制度設計で資金を流すかです。
そのため、今後の基本計画の文言や予算編成の中身が決定的に重要になります。
また、AI、宇宙、核融合、半導体といった分野は、いずれも国際競争が激しい領域です。
こうした中、日本が研究開発、実装、産業化までつなげられるかが問われます。
科学技術投資60兆円は、国家戦略としての本気度を示す数字でもあります。
実際に、第6期計画では目標未達の見通しが出ています。
だからこそ、第7期計画では目標設定だけでなく、執行体制、検証方法、民間投資の誘導策まで具体化する必要があります。
科学技術投資60兆円が実効性を持つかどうかは、これからの制度運用にかかっています。
ソース
毎日新聞
ロイター

