痛みのない血糖モニタリングへ大前進──研究者が「pH調整センサー」で非侵襲グルコース測定の大きな壁を突破

糖尿病患者にとって、血糖値の測定は毎日の生活と健康を守るために欠かせない行為です。しかし、現状の多くのシステムでは「指先を刺す」「皮膚の下に小さな針を挿入する」といった痛みや不快感を伴います。

そんな中、痛みを伴わない“非侵襲的”血糖モニタリングを現実に近づける大きな進歩が報告されました。

2025年11月24日に Nature Communications に発表された研究で、
天津大学の Wangwang Zhu 氏率いるチーム は、これまで正確な血糖測定を妨げてきた大きな障害――皮膚のpH変動――を補正する新しいセンサー技術を開発しました。

これは将来的に、針や痛みを伴わない血糖測定の実現に直結する可能性を持つ、非常に重要な成果です。


“逆イオントフォレーシス”という仕組みで皮膚の下のグルコースを測る技術

今回の技術の中心となるのが 逆イオントフォレーシス という方法です。

これは、

  • 皮膚にごく微弱な電流を流して
  • 皮膚のすぐ下にある「間質液(細胞を取り囲む薄い液体)」を(ほんの少しだけ)皮膚表面に引き寄せ
  • その液体に含まれるグルコースを測る

という仕組みです。

この方法は、
針を刺さないで血糖値に近い値が測れる可能性があるため、長年注目されてきました。

しかし…


最大の問題:皮膚の「pH変動」が測定精度を大きく狂わせる

人間の皮膚は、汗や温度、乾燥状態など様々な要因で pH(酸性・アルカリ性の度合い)が常に変化しています。

このpHの揺らぎが、
グルコースの抽出量を大きく変えてしまう原因になっていました。

Zhu氏らによる過去の実験では、

  • pHが1増えるだけで
  • 測定されるグルコース濃度が 0.08~0.15 mmol/L も増えてしまう

ことがわかりました。

血糖値の管理において、これは致命的な誤差になり得ます。


pHを同時に測定し補正する“二重センサー”の誕生

今回開発されたセンサーの最大の革新は、

グルコース濃度とpHを同時に測ることができる点

です。

センサーは、

  • 皮膚から引き出した間質液のグルコース量を測定
  • 同時にその場所のpHをリアルタイムで測定し
  • pHによる誤差を自動で補正する

という仕組みを備えています。

研究チームはこのアプローチを

「生理的環境が変化してもグルコース測定の信頼性を劇的に向上させる技術」

と説明しています。


動物実験での検証:皮膚を傷つけずに高精度でグルコース抽出を実現

動物モデルを用いた試験では、

  • グルコース抽出の効率が大きく向上
  • 皮膚への刺激やダメージを最小限に抑えることに成功

といった結果が得られました。

さらに、研究者たちは電流の強さを細かく調整し、

痛みや刺激が一切ない“快適な使用感”

を実現するための最適値も導き出しました。

作られたプロトタイプは、

  • 薄くて柔らかく
  • 肌に密着して使えるパッチ型
  • 日常生活の中で違和感なく装着できる設計

となっており、まさに「未来の糖尿病デバイス」を予感させるものです。


なぜ非侵襲的な血糖測定は“糖尿病技術の聖杯”なのか?

現在の連続血糖モニター(CGM)は非常に進化していますが、
それでもなお次のような問題があります。

● 現在のCGMの課題

  • 皮膚に 小さな針(フィラメント) を挿入する必要がある
  • 7〜15日ごとに交換が必要
  • コストが高い
  • 皮膚かぶれなどのトラブルが起きる場合がある

● 精度指標 MARD の課題

MARD(平均絶対相対誤差)は、血糖計の精度を示す重要な指標です。
現在の市販CGMは 8〜13% 程度。

完全非侵襲型が市場に出せないのは、精度がこの水準に届かなかったためです。

今回の研究は、この精度に近づくための重大な一歩を示しています。


研究者が認める残された課題と、今後の展開

研究チームも、臨床応用に向けて解決すべき課題が残っていることを明らかにしています。

具体的には、

  • センサーの長期的な安定性
  • 肌に使う材料の安全性(生体適合性)
  • 個人差に合わせたキャリブレーション
  • 汗・温度・皮膚の電気特性など外部要因の影響

などがあります。

● 次のステップ:人間での臨床試験開始へ

研究チームはすでに人を対象にした試験を準備しており、

  • 機械学習(AI)を用いて
  • 温度・汗の成分・皮膚の状態などを考慮した高度な信号分析

を行うことで、さらに精度を高める予定です。

これは 「痛みのない血糖測定」を本格的に実現する道をひらく挑戦 と言えるでしょう。


まとめ:痛みゼロの血糖測定がついに現実味を帯びてきた

今回の研究は、これまで実現できなかった非侵襲的血糖モニタリングの精度問題を根本から解決する可能性を示しています。

  • pH変動という大きな障害を正確に補正
  • 皮膚を傷つけない快適なセンサー設計
  • AIと組み合わせることでさらなる精度向上も可能

糖尿病患者の多くが毎日経験する「痛み」や「不安」を取り除くことにつながるこの技術は、医療機器の未来を大きく変える可能性を秘めています。

今後の臨床試験の結果に大きく注目が集まるでしょう。


■ ソース

  • Abbott
  • PubMed
  • ScienceDirect
  • Bioengineer.org
  • Nature Communications
  • type1strong.org
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