日本のものづくり技術に、また新たな革新が生まれました。
産業界で「最も硬い材料の一つ」として知られるタングステンカーバイド(炭化タングステン)。非常に硬くて丈夫な反面、その加工の難しさが長年の課題でした。
しかし今回、広島大学の研究チームが、この超硬合金を3Dプリントで製造することに成功しました。しかも、従来の製造方法で出る大量の廃棄物を減らしながら、極めて高い耐久性を維持できるという、まさに「いいとこ取り」の技術です。
今回は、2026年2月7日に公開された最新レポートをもとに、この技術の何が画期的なのか、分かりやすく解説していきます。
そもそも「超硬合金」とは?なぜ3Dプリントが難しいの?
今回、広島大学先進理工系科学研究科の丸本敬太助教らのチームが成功させたのは、「タングステンカーバイド-コバルト合金」という材料の3Dプリントです。
これは一般的に「超硬合金」と呼ばれ、その名の通りものすごく硬い金属です。その硬さは「1400HV」を超え、サファイアやダイヤモンドといった地球上で最も硬い物質にわずかに及ばない程度という、凄まじい数値を誇ります。
この硬さと摩耗への強さから、金属を削るための「切削工具」や「金型」、さらには建設機械の先端部分などに重宝されています。
しかし、硬すぎるがゆえに大きな弱点がありました。それは、「形を作るのが非常に難しい」ということです。
これまでは「粉末冶金(ふんまつやきん)」という、金属の粉を型に入れて高い圧力をかけ、長時間焼き固める方法で作られてきました。しかしこの方法は、材料の無駄が多くコストがかかる上に、「型」から抜ける形状しか作れないため、デザインの自由度が低いという欠点があったのです。
「溶かさずに軟らかくする」という逆転の発想
そこで研究チームが目をつけたのが、積層造形技術(いわゆる3Dプリンター)です。
丸本助教は声明で次のように述べています。
「超硬合金は非常に優れた材料ですが、タングステンやコバルトといった高価なレアメタルを原材料とするため、使用量の削減が強く求められています。3Dプリント技術を使えば、必要な場所にだけ材料を積み上げることができるため、無駄な材料消費を抑えることができます」
しかし、ただ3Dプリンターで出力すればいいというわけではありません。超硬合金は熱に敏感で、完全にドロドロに溶かしてしまうと、化学的な損傷が起きてしまい、せっかくの強度が失われてしまうのです。
このジレンマを解決したのが、「ホットワイヤー・レーザー照射」という新技術です。
これは、レーザービームと、あらかじめ予熱したワイヤー状の材料を組み合わせる方法です。重要なのは、「材料を完全に溶かしきらない」こと。
材料がくっつく程度にまで「軟らかく」するけれど、完全に液体にはしないという絶妙な温度管理を行うことで、超硬合金としての性能を損なうことなく成形することに成功したのです。
巧みな温度管理で「欠陥ゼロ」を実現
この研究成果は、2025年12月に『International Journal of Refractory Metals and Hard Materials』のオンライン版で発表され、2026年4月の印刷版にも掲載される予定です。
研究チームは、この技術を確立するために、以下の2つの工夫を行いました。
- ニッケル合金の土台を使用する: ベースとなる層にニッケル合金を挟むことで、安定性を高めました。
- 厳密な温度制御: コバルトが溶ける温度以上でありながら、金属の結晶粒が粗くなってしまう温度以下という、非常に狭い範囲で温度をコントロールしました。
この精密な制御により、三菱マテリアル超硬工具株式会社との共同研究において、内部にひび割れや空洞といった欠陥のない、完璧な超硬合金を作り出すことに成功しました。
丸本助教は、この技術の将来性についてこう語っています。
「材料を完全に溶かすのではなく、軟化させて成形するというアプローチは非常に斬新です。これは今回の超硬合金だけでなく、他の扱いにくい材料の加工にも応用できる可能性があります」
今後の展望とものづくりへの影響
もちろん、課題がすべて解決したわけではありません。研究チームは今後、より複雑な形状を作れるようにすることや、亀裂の発生をさらに抑える管理方法などに取り組む予定です。
将来的には、この技術を使って実際の切削工具を製造したり、産業用の機械部品の耐久性を向上させたりすることを目指しています。
硬くて加工が難しい材料を、必要な分だけ、自由な形で作り出せる。日本の研究者が生み出したこの技術は、製造業のコスト削減と環境負荷の低減、そして新しい製品デザインの可能性を大きく広げることになりそうです。
ソース
- 3dprintingindustry.com
- interestingengineering.com
- bioengineer.org

