マウスの脳活動から動画を再構成 UCL研究チームが単一ニューロン記録で初成功

ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(UCL)の科学者たちが、マウスの脳活動のみから10秒間の動画クリップを再構成することに成功しました。

この研究は、視覚野の単一細胞レベルの神経記録から自然動画を復元した初めての事例とされています。
研究成果は学術誌 eLife に発表されました。

つまり今回の研究は、脳が視覚情報をどのように処理し、どのように現実を再構成しているのかを理解する新たな手段になる可能性があります。

こうした研究は、脳科学や人工知能の分野において重要な意味を持つと考えられています。

動画再構成を可能にした研究チーム

この研究は、
University College London にある
Sainsbury Wellcome Centre の研究チームが中心となって進めました。

研究を率いたのは神経科学者の
Joel Bauer 博士です。

研究チームは、2023年の神経科学コンペティションである Sensorium のために開発された「動的神経エンコーディングモデル」を基盤として利用しました。

このモデルは、次の要素を考慮してニューロンの活動を予測します。

  • 映像の内容
  • マウスの身体の動き
  • 瞳孔の大きさ

つまり、映像刺激と生理状態の両方を考慮して神経活動を推定するAIモデルです。

ニューロン活動を記録する実験方法

研究者たちは、マウスに短い動画クリップを見せながら、
「二光子カルシウムイメージング」という技術を用いて脳活動を記録しました。

この技術は、

  • 脳細胞が活動するとカルシウム濃度が上昇する
  • その変化を顕微鏡で観察する

という仕組みで、どのニューロンが活動しているかを可視化する方法です。

実験では、マウスの視覚皮質にある多数のニューロンの発火パターンを取得しました。

データセットの規模は次の通りです。

  • 10匹のマウスを対象
  • 1匹あたり約8,000個のニューロン
  • 最終的に5匹のマウスから動画再構成を生成

これは、神経科学の実験としては非常に大規模な記録です。

AIが神経活動から動画を生成する仕組み

動画再構成のプロセスは、次のように進められました。

  1. マウスが動画を見たときの神経活動を記録
  2. 空白の映像をAIモデルに入力
  3. モデルが神経活動を再現するようピクセルを調整
  4. 神経活動が一致するまで反復計算

つまり、「脳の活動パターンと一致する映像」をAIが逆算して生成する方法です。

バウアー博士はUCLのプレスリリースで次のように述べています。

「このアプローチを用いることで、10秒の動画クリップの高品質な再構成を達成することができました。」

さらに、

「より多くのニューロンのデータを含めるほど、再構成の精度が向上しました。」

この結果は、脳活動データの量が再構成精度に直結することを示しています。

従来研究との違い

これまでにも、脳活動から画像を復元する研究は存在しました。

しかし今回の研究には重要な違いがあります。

従来の多くの研究

  • fMRIを使用
  • 人間の脳を対象
  • 生成AIモデルの事前学習に依存

これに対し今回の研究は、

  • 単一細胞レベルの神経記録
  • 生成AIの事前知識に依存しない
  • 自然動画を再構成

という特徴があります。

その結果、研究チームは

従来研究の約2倍のピクセル相関精度を達成しました。

さらに、

  • 毎秒30フレームの時間変化
  • 動画としての動き

も再現することに成功しました。

脳が「現実」をどう歪めるのか

研究チームは、この技術を利用して、
脳内の視覚表現が現実世界とどのように異なるのかを調査する予定です。

バウアー博士は次のように説明しています。

「私たちの頭の中には、世界の完全な表現があるわけではありません。」

つまり、人間や動物の脳は、

  • 感覚情報をそのまま記録するのではなく
  • 解釈し、強調し、再構成している

と考えられています。

博士はさらにこう述べています。

「現実と脳内の表現との乖離はエラーではありません。
むしろ、心が感覚情報を解釈し強化する仕組みを反映しています。」

今後の研究への影響

今回の成果は、次の研究分野に大きな影響を与える可能性があります。

脳科学

視覚認知の仕組みをより正確に理解できる可能性。

神経疾患研究

視覚処理障害や脳疾患の理解につながる可能性。

人工知能

生物の視覚処理を参考にした新しいAI設計。

将来的には、脳が見ている世界を直接可視化する技術につながる可能性もあります。

ただし今回の研究はマウスを対象としたものであり、
人間の脳で同様の技術が実現するにはまだ多くの課題が残っています。

それでも、この研究は

「脳が見ている世界」を直接再構築する研究の重要な一歩といえるでしょう。

ソース

  • UCL(University College London)プレスリリース
  • 学術誌 eLife
  • euronews
  • The Guardian

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