2026年4月2日、高市早苗首相は衆院本会議で、ホルムズ海峡の事実上の封鎖によるエネルギー供給不安を巡り、国民に節電・節約の協力を求める可能性について問われました。
これに対し首相は、「あらゆる可能性を排除せずに臨機応変に対応してまいります」と答弁しました。
この発言は、エネルギー危機がさらに深刻化した場合に、政府が国民へ直接的な行動変容を求める可能性を公式に示したものとして注目を集めています。
現時点では安定供給に支障なしとの説明
首相は同じ答弁で、「石油については日本全体として必要な量は確保されており、電力についてもホルムズ海峡を経由する燃料への依存度は低く、安定供給に支障は出ていない」と説明しました。
一方で、資源に乏しい日本では、夏と冬の需要期に節電や節約への協力を求めてきたとも強調しました。
そのため、現時点では供給不安を否定しつつも、情勢の悪化次第では通常時を超える対応に踏み込む可能性をにじませた形です。
「排除せず」という表現の重み
首相答弁の核心は、単なる一般論ではなく、最悪のシナリオも政府が視野に入れていると受け止められる点にあります。
つまり、供給がすぐ途絶えるわけではないものの、状況次第では節電要請や節約要請が現実の政策手段になり得るということです。
こうした中、この発言は日本のエネルギー政策が平時の延長線上では処理できない段階に入りつつあることを示す重要なシグナルになりました。
危機の背景にあるホルムズ海峡の封鎖状態
今回の答弁の背景には、ホルムズ海峡の事実上の封鎖状態があります。
日本は原油輸入の多くを中東に依存しており、資源エネルギー庁の統計では、2024年度の中東依存度は95.9%です。
また、資源エネルギー庁は、日本のエネルギー自給率が2023年度時点で15.3%にとどまり、G7で最も低い水準だと示しています。
日本の脆弱性が改めて浮き彫りに
ホルムズ海峡は、中東産原油やLNGが世界市場へ向かう要衝です。
そのため、ここが長期的に機能不全になれば、日本の燃料調達や価格形成に強い圧力がかかります。
実際に、日本エネルギー経済研究所は2026年3月の分析で、IEAが協調放出を決定するほどの深刻な供給不安が起きていると指摘しました。
政府は段階的に対応を強化
高市政権は、ホルムズ海峡危機の深刻化を受けて、段階的に緊急措置を打ち出してきました。
まず、3月16日から民間備蓄の放出を開始しました。
さらに、3月24日にエネルギー安定確保関係閣僚会議の初会合を開き、3月26日から国家備蓄の放出を始める方針を明らかにしました。
備蓄放出と代替調達を同時に進める政府
経済産業省の会見では、民間備蓄15日分の放出に加え、国家備蓄原油の放出、産油国共同備蓄の活用、さらにホルムズ海峡を経由しない代替ルートからの調達拡大も進めていると説明しました。
具体的には、サウジアラビアの紅海側の港や、UAEのフジャイラ港からの積み出し、米国からの調達拡大などが挙げられています。
つまり、政府は国内備蓄の取り崩しだけでなく、調達先と輸送経路の多角化を同時に進めていることになります。
石炭火力の稼働拡大という非常手段
3月27日には、高市首相が石炭火力発電所の稼働率を一時的に引き上げる方針を示しました。
首相は、「効率の悪い石炭火力の稼働抑制措置を、2026年度は適用しないこととし、年約50万トンのLNG消費を節約します」と説明しています。
これはLNGの使用量を抑え、電力の安定供給を優先するための措置です。
脱炭素政策とのねじれが表面化
しかし、この対応は日本の脱炭素政策と緊張関係にあります。
経済産業省が公表する第7次エネルギー基本計画は、エネルギー安全保障と脱炭素の両立を掲げています。
一方で、現実の危機対応では石炭火力の稼働拡大が必要になっており、安全保障を優先すると脱炭素の歩みが後退しかねないという矛盾が鮮明になっています。
エネルギー基本計画が抱える現実との距離
第7次エネルギー基本計画は、2025年2月18日に閣議決定されました。
この計画は、日本を取り巻くエネルギー情勢の変化を踏まえつつ、安定供給の確保とGX、つまりグリーントランスフォーメーションの推進を両立させる考え方を示しています。
しかし、今回の危機では、中長期の設計図だけでは足元の供給不安に即応できないという課題が浮き彫りになりました。
追加予算を巡る政府の姿勢
3月12日の国会審議では、高市首相はエネルギー高騰対策について、「追加の予算措置は考えていない」と述べました。
また、赤沢経済産業相は、基金の残高が2800億円あり、3月分はそれで賄えると説明しています。
一方で、必要であれば予備費の活用を検討する考えも示されており、追加財政措置を完全に閉ざしているわけではありません。
国民負担の問題はこれから本格化する
備蓄放出や補助金で当面の価格上昇を抑えても、危機が長引けば負担の先送りには限界があります。
原油やLNGの価格上昇は、やがて電気代やガソリン代、物流費、製造コストへ広がります。
そのため、節電要請や節約要請の議論は、単なる協力呼びかけではなく、家計と企業活動の両方に直結する問題です。
夏の需要期が最大の焦点に
今後、特に重要になるのは夏の電力需要期です。
通常でも7月から8月は需要が高まりやすく、供給側に余裕がなければ節電要請が現実味を帯びます。
実際に、首相答弁は現時点で供給に支障がないと説明しつつも、将来の対応余地を明確に残しました。
IEA協調放出の効果も見極めが必要
国際エネルギー機関、つまりIEAは3月11日に、過去最大規模となる4億バレルの協調放出を決定しました。
日本エネルギー経済研究所は、これを未曽有の規模の市場安定化措置だと分析しています。
しかし、協調放出は時間を稼ぐ政策であり、根本的に海上輸送の不安定さを解消するものではありません。
代替調達の成否が危機の深さを左右する
そのため、今後の焦点は、中東以外からの代替調達をどこまで拡大できるかに移ります。
米国、豪州、カナダなどからの調達拡大は有力な選択肢です。
しかし、世界全体でLNGや原油の争奪が激しくなれば、日本だけが有利に確保できる保証はありません。
問われるのは平時の前提そのもの
今回のホルムズ海峡危機は、日本が平時に前提としてきたエネルギー安全保障の枠組みそのものを問い直しています。
備蓄があるから直ちに危機ではない、という説明は重要です。
しかし一方で、輸入依存の構造そのものは変わっていないため、危機が長引けば国民生活への影響は避けにくくなります。
首相答弁が意味するもの
高市首相の「あらゆる可能性を排除せず」という言葉は、単なる慎重表現ではありません。
それは、政府がエネルギー危機を平時の延長ではなく、非常時の政策判断を要する局面として捉え始めたことを示しています。
つまり、今回の国会答弁は、日本のエネルギー政策が安全保障、物価、脱炭素、国民負担の四つを同時に背負う転換点にあることを象徴する発言だといえます。
ソース
毎日新聞
FNNプライムオンライン
経済産業省
資源エネルギー庁
日本エネルギー経済研究所
TBS NEWS DIG
テレビ朝日ニュース

