ホルムズ海峡封鎖という未曽有の事態が長期化する中、日本政府はこれまでの「供給確保」から「需要抑制」へと政策の重心を移し始めました。
赤沢亮正経済産業相は3月末以降、繰り返し「国民経済に大きな影響がない形で、需要サイドの対策を含めあらゆる政策を検討していきたい」と発言しています。
また、4月3日の閣議後記者会見でも、改めて同趣旨の方針を示しました。
そのため、ガソリンや灯油など燃料の節約を国民に呼びかける案も政府内で浮上しています。
つまり、日本のエネルギー政策は新たな局面に入りつつあります。
ホルムズ海峡封鎖が危機の出発点になった
2026年2月末、米国・イスラエルによるイラン攻撃を受け、イランがホルムズ海峡の封鎖に踏み切りました。
日本は原油輸入の約9割を中東に依存しており、この封鎖は直ちに石油安定供給への深刻な懸念を引き起こしました。
当初、政府は「備蓄が200日超あり当面の供給には支障なし」との立場を堅持していました。
しかし、封鎖が1ヵ月以上続く中で、その姿勢は変化しました。
備蓄放出と価格抑制策を打ち出した政府
高市早苗首相は3月11日夜の記者会見で、日本単独での石油備蓄放出方針を発表しました。
さらに同時に、ガソリン価格を1リットル当たり170円程度に安定させる補助金措置も打ち出しました。
一方で、この時点では供給面の対策が前面に出ていました。
しかし、こうした中で封鎖の長期化が現実味を増し、政策の力点が変わり始めました。
過去最大規模の備蓄放出を進める
政府は国際エネルギー機関、つまりIEAとの協調のもと、民間備蓄15日分と国家備蓄約1ヵ月分を合わせた約45日分、およそ8,000万バレルの備蓄放出を進めてきました。
IEA加盟国には、純輸入量の90日分の備蓄義務があります。
しかし、日本はそれを大きく上回る254日分の備蓄を保有しています。
赤沢経産相は、「事が起きる前から相当大きく構えている」と説明しています。
実際に、政府は供給不安に先手を打つ姿勢を強調してきました。
代替原油の確保も同時進行で進む
政府は備蓄放出だけに頼っていません。
米国・中央アジア・中南米産の原油確保も並行して進めています。
そのため、供給面での緊急対応は一定程度奏功してきました。
しかし、備蓄放出だけでは危機を乗り切れないという見方が強まっています。
なぜ今、石油需要の抑制策なのか
備蓄放出は、あくまで「時間稼ぎ」にすぎません。
封鎖が長期化すれば、備蓄はいずれ底をつきます。
こうした認識が政府と経済界の双方で広がっています。
そのため、需要を絞ることで備蓄の消耗を遅らせ、供給量が確保できている状態を少しでも長く維持することが、石油需要の抑制策の本質的な狙いになっています。
つまり、石油需要の抑制策は単なる節約呼びかけではありません。
供給危機を長引かせないための延命策として位置づけられています。
IEAも需要サイドの対策を提案
IEAは加盟国に対し、需要サイドの措置を提案しています。
具体的には、在宅勤務の推進、公共交通機関の積極利用、不要不急の自動車利用の自粛です。
また、石油連盟も3月24日の自民党合同会議で、事態の長期化を見据えた需要抑制策の検討を政府に要請していました。
一方で、日本では補助金政策が並行して続いており、政策の一貫性が問われています。
政府と経済界で節約論が広がる
赤沢亮正経産相は、「需要サイドの対策を含めあらゆる政策を検討」と繰り返し表明しています。
時期は3月末から4月3日にかけてです。
高市早苗首相も4月2日、「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応する」と述べました。
つまり、政府中枢も節約要請を排除していません。
さらに、日本商工会議所の小林健会頭は4月2日、「やがて節約をお願いする局面が来ると思う。政府に協力する」と発言しました。
実際に、経済界も政府の需要抑制策に歩調を合わせ始めています。
主な発言と動向の整理
| 主体 | 発言・動向 | 時期 |
|---|---|---|
| 赤沢亮正 経産相 | 「需要サイドの対策を含めあらゆる政策を検討」と繰り返し表明 | 3月末〜4月3日 |
| 高市早苗 首相 | 「あらゆる可能性を排除せず、臨機応変に対応する」 | 4月2日 |
| 日商・小林健 会頭 | 「やがて節約をお願いする局面が来ると思う。政府に協力する」 | 4月2日 |
| 石油連盟 | 長期化への備えとして需要抑制策の検討を政府に要請 | 3月24日 |
補助金と石油需要の抑制策は矛盾する
最大の問題点として浮上しているのが、政策の一貫性です。
政府は3月19日から、ガソリン価格を抑制するための補助金を再開しています。
しかし、この補助金にはガソリン消費を促す側面があります。
一方で、政府は需要抑制を呼びかける方向に動いています。
つまり、需要を喚起する補助金を継続しながら、同時に需要抑制を求める構図になっています。
この矛盾を政府がどう解消するのかが、今後の大きな焦点です。
韓国のナフサ輸出禁止が日本に波及する
日本のエネルギー危機をさらに複雑にしているのが、韓国の動きです。
報道によると、韓国政府は3月27日午前0時から、ナフサの輸出を5ヵ月間全面禁止し、全量を国内供給に回す決定を行いました。
ナフサは、石油から作る原料の一つです。
主にプラスチックや包装材の原料として使います。
日本は中東産ナフサの輸入の一定割合を韓国経由に依存していたとされます。
そのため、ナフサ不足が製造業や食品業界への波及として懸念されています。
生活への影響はガソリン不足だけではない
今回のエネルギー危機の実態は、単純な「ガソリン不足」ではありません。
複合ショックとして生活と産業に広がる可能性があります。
複合ショックとは、一つの危機が複数の分野に連鎖して広がる現象です。
つまり、燃料だけでなく、物流や原材料、地域格差にまで影響が及びます。
燃料価格高騰が物価全体を押し上げる
まず警戒されているのが、燃料価格の高騰です。
輸送コストが上がるため、物価全体を押し上げます。
また、エネルギー価格の上昇は家計負担を重くします。
そのため、ガソリン価格だけでなく、広い分野で値上がり圧力が強まります。
ナフサ不足が包装材や肥料にも影響する
次に懸念されるのが、石油化学原料の不足です。
ナフサ不足は、包装材、肥料、プラスチック製品に影響を及ぼします。
一方で、こうした原料は日常生活の多くの製品に使われます。
そのため、石油危機は製造業だけの問題では終わりません。
物流コスト上昇が生活用品価格に転嫁される
物流コストの上昇も避けられません。
トラックや船舶の輸送コストが増えれば、食品や生活用品の価格に転嫁されます。
実際に、燃料費は物流網の基礎コストです。
そのため、石油需要の抑制策を考える際も、物流への影響を切り離せません。
地方では自動車依存が重い課題になる
地域間の格差拡大も大きな懸念です。
公共交通が貧弱な地方では自動車依存度が高く、影響がより深刻になります。
都市部では代替手段が比較的あります。
しかし、地方では通勤や通院、買い物の多くが自動車に依存しています。
つまり、同じ石油需要の抑制策でも、地域によって負担の重さが大きく異なります。
この点は政策設計で避けて通れません。
政策の転換点で問われる政府の実行力
政府は今、「供給確保」という守りの一手から、「需要抑制」という攻めの一手へと舵を切り始めました。
石油需要の抑制策が現実のものになれば、2011年の東日本大震災後の節電要請以来、約15年ぶりの大規模な国民向けエネルギー抑制要請になります。
しかし、補助金政策との整合性はなお大きな課題です。
さらに、具体的な節約目標の設定も欠かせません。
また、経済活動への影響を最小化しながら節約を促す仕組み作りも必要です。
政府の政策立案能力が、今まさに問われています。
ソース
ロイター
読売新聞
野村総合研究所
47NEWS
高知新聞
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