世界最大の電気自動車(EV)用バッテリーメーカーである
CATL が、次世代EVの中核となる全固体電池技術の詳細を示した国際特許を公開しました。
この特許は、2025年出願・2026年3月5日に公開されたものです。
公開したのは国際特許制度を管理する 世界知的所有権機関 です。
全固体電池は、現在のリチウムイオン電池を大きく超える性能を持つ可能性があります。
そのため、EV産業の次世代覇権を左右する重要技術として注目されています。
今回の特許は、硫化物系固体電解質の不安定性という最大の課題を解決する正極設計を示しました。
もし実用化が進めば、超高速充電や高温耐久性の向上が期待されます。
さらにCATLは、2027年までの量産化を目標に開発を進めています。
EVの航続距離・充電時間・安全性に大きな変化をもたらす可能性があります。
全固体電池とは何か EVを変える次世代バッテリー
まず、全固体電池とは何かを整理します。
従来のEVに使われている電池は、
液体電解質(電気を運ぶ液体)を使うリチウムイオン電池です。
しかしこの方式には問題があります。
- 発火リスク
- 高温での性能劣化
- エネルギー密度の限界
そこで登場したのが全固体電池です。
全固体電池は、電解質を液体ではなく固体材料に置き換える電池です。
そのため次のメリットがあります。
- 高い安全性
- エネルギー密度の向上
- 急速充電
- 長寿命
つまり、EVの性能を根本から変える技術と考えられています。
一方で、材料の安定性や製造コストなど商業化に向けた課題が多い技術でもあります。
CATLの国際特許 硫化物電解質の弱点を克服
今回公開された特許はPCT/CN2025/086345 という出願番号で登録されています。
この特許は、硫化物系固体電解質を使う全固体電池の正極構造を説明しています。
硫化物電解質は、全固体電池の有力材料です。
しかし重大な問題があります。
それは、化学的に不安定で分解しやすいことです。
CATLの特許では、次の材料を組み合わせた正極を提案しています。
- フッ素含有リチウム塩
- 硫化物固体電解質
この組み合わせによって、電解質が分解した際にフッ化リチウム(LiF)が生成されます。
この物質が、正極表面に保護層を形成します。
この保護層によって次の効果が生まれます。
- 電解質のさらなる分解を防止
- リチウムイオンの移動を促進
- 高速充電を実現
- 高温劣化の抑制
つまり、材料の弱点を逆に利用する設計です。
これは全固体電池の実用化に向けた重要な技術的アプローチと考えられます。
500Wh/kgのエネルギー密度 パイロット生産開始
中国メディア CarNewsChina によると、CATLはすでに全固体電池のパイロット生産を開始しています。
現在の試作電池の性能は次の通りです。
エネルギー密度:500Wh/kg
これは、現在主流のリチウムイオン電池より約40%高い性能です。
エネルギー密度とは、同じ重量でどれだけ多くの電力を蓄えられるかを示す指標です。
数値が高いほど、EVの航続距離は伸びます。
CATLによると、現在の技術成熟度はTRL(技術成熟度レベル)4にあります。
TRLとは、研究開発の進み具合を示す国際指標です。
CATLの目標は次の通りです。
2027年までにTRL7〜8に到達
この段階は車両への統合試験が可能なレベルを意味します。
技術課題 コストは現在の3〜5倍
しかし、課題はまだ残っています。
CATLの主任科学者Wu Kaiによると、現在の開発の重点は次の段階です。
20Ahセル → 60Ah自動車用セルへのスケールアップ
Ah(アンペア時)は電池容量を表す単位です。
つまり、自動車向けの大容量セルを安定して作れるかが重要になります。
またCATLは、約1,000人のエンジニアをこのプロジェクトに投入しています。
ただし、同社は慎重な姿勢も示しています。
- 基礎科学の課題はほぼ解決
- しかしエンジニアリング課題が残る
特に大きいのがコスト問題です。
現在の硫化物系全固体電池は従来電池の3〜5倍のコストとされています。
そのため、EVでの本格普及には量産技術の確立が不可欠です。
世界で激化する全固体電池競争
全固体電池の開発競争は世界中で激しくなっています。
日本企業もこの分野で重要なプレイヤーです。
トヨタ自動車は次の目標を掲げています。
2027〜2028年に全固体電池EVを発売
さらにパートナー企業の出光興産は固体電解質の製造工場を建設中です。欧州勢も動いています。
Volkswagenが支援するGotion High-Tech
この企業は次の計画を進めています。
- 2GWh全固体電池ライン
- 350Wh/kgセル
- 2026年後半に少量生産EVへ搭載
さらにQuantumScapeもセラミックセパレーター技術の量産化を進めています。
つまり、世界的な電池覇権争いが始まっています。
中国が世界初の全固体電池国家規格を策定へ
中国政府も制度面で動いています。
中国は2026年7月に世界初の全固体電池国家規格を導入予定です。
この規格は中国汽車技術研究センター(CATARC) が策定しています。
新しい規格では電池の種類を明確に定義します。
- 液体電池
- 半固体電池
- 全固体電池
規格整備は、商業化の前提となる重要なステップです。
さらに中国メーカーも試験車両の開発を進めています。
参加企業には次が含まれます。
- BYD
- Geely
- Dongfeng Motor
これらの企業は2027年から全固体電池搭載試験を計画しています。
市場予測 普及はまだ初期段階
業界調査会社 SMM の予測では全固体電池市場はまだ小さい段階です。
2028年の出荷予測
- 全固体電池:13.5GWh
- 半固体電池:160GWh
つまり、当面は半固体電池が主流になると見られています。
また、CATLは次の噂を否定しています。
航続距離2,000km EV
これは技術的に可能性はあるものの、短期的な目標ではないと説明しています。
初期用途として想定されるのは
- ドローン
- ロボット
などです。
これらはコストよりエネルギー密度が重要だからです。
EV産業の次の主戦場
全固体電池は、EV技術の「最後の壁」と呼ばれることがあります。
もし量産化が成功すれば、
- EV航続距離の大幅増加
- 充電時間の短縮
- バッテリー安全性の向上
といった変化が起きます。
そして、電池を制する企業がEV市場を制する可能性があります。
CATLの今回の特許公開は、その競争が次の段階に入ったことを示しています。
2027年前後は、EV産業にとって重要な転換点になる可能性があります。
ソース
- Interesting Engineering
- CarNewsChina
- Notebookcheck
- Electrek
- Carscoops
- Electrive
- SMM industry forecast
- 世界知的所有権機関(WIPO)特許公開情報

