金融庁・東証が企業統治指針改訂案を提示 現預金130兆円の活用検証を取締役会に要求

導入(何が起きたのか)

金融庁と東京証券取引所は2月26日、「コーポレートガバナンス・コードの改訂に関する有識者会議」の第2回会合を開きました。
そして、企業統治指針(コーポレートガバナンス・コード改訂案)を正式に提示しました。

改訂案の柱のひとつは、上場企業の取締役会が、現預金を投資などに有効活用できているかを「不断に検証」することです。
こうした中、企業に蓄積された手元資金を、成長投資へ振り向けるよう求める内容が盛り込まれました。

導入(なぜ重要か)

ブルームバーグの集計では、TOPIX構成銘柄のうち継続比較できる1215社(金融など除く)の現預金が、2025年末で約130兆円に達しました。
さらに、10年間で8割増えたと示されました。

一方で、金融庁の資料は、日本企業の現預金が長期間にわたり増加傾向が継続すると示します。
そのため、資金の抱え込みが続く状況を、企業価値や成長投資の観点から見直す流れが強まります。

導入(今後どうなるか)

指針は2015年の策定以来、2018年・2021年と改訂を重ねました。
今回は5年ぶり3回目の改訂になり、今夏をめどに最終決定し、パブリックコメント(意見募集)を経て正式に適用される見通しです。

背景

今回の議論は、金融庁と東京証券取引所が共同で進めます。
会合は2月26日9時30分から12時00分まで開く予定として案内しました。

また、金融庁は「コーポレートガバナンス・コード改訂案」をたたき台にして、有識者会議で議論を進めると説明しています。
つまり、今回の提示は最終決定ではなく、改訂作業の中核の段階に位置づきます。

背景(用語の整理)

コーポレートガバナンス・コードは、上場企業の統治の考え方を示す指針です。
そして、法令のような罰則を持つ枠組みではありません。

一方で、コンプライ・オア・エクスプレインは「守るか、守らないなら説明する」という考え方です。
そのため、実施しない場合に投資家への説明が必要となり、企業行動への影響力が大きくなります。

詳細

金融庁は、「コーポレートガバナンス・コード(企業統治指針)」の改定案を公表しました。
そして、自社の経営資源配分が経営戦略や計画に照らし適切かを「不断に検証」するよう明記しました。

また、ここでいう経営資源の配分は、現預金の使い方だけに限りません。
しかし、改訂案は、現預金を投資などに有効活用できているかどうかの検証も求めます。

詳細(現預金130兆円の位置づけ)

ブルームバーグは、国内上場企業がため込んだ約130兆円の現預金が動き出すとの期待が高まると報じました。
さらに、コーポレートガバナンス・コード改訂案が企業の本格的な成長投資を促すなら、日本株への海外マネー流入が加速する可能性があるとしています。

近年の統治改革で自社株買いなどが拡大しました。
一方で、日本企業の現預金は過去最高水準にあります。

詳細(有識者会議とスケジュール)

金融庁は今年、統治指針を5年ぶりに改訂します。
26日に開く有識者会議で原案を示して議論し、今後はパブリックコメントなどを経て今夏めどに最終決定する見通しです。

詳細(検証対象の中身)

改訂で注目を集めるのは、経営資源の配分に関する内容の追加です。
金融庁は企業の取締役会に、現預金などを有効活用できているかの検証を求める方針を示しました。

さらに、研究開発などの成長投資や、従業員といった人的資本への投資など、資金の使い道に関する情報開示も念頭に置くとされました。
つまり、コーポレートガバナンス・コード改訂案は、資金の「持ち方」だけでなく「使い方」と「説明」をセットで扱います。

仕組み・分析

ここでいう取締役会の役割は、経営陣の意思決定に直接介入することではありません。
そのため、資源配分の適切性を監督する方向に整理されます。

仕組み・分析(「不断に検証」の意味)

改定案は「不断に検証」を求めています。
また、有識者会議の資料でも、現預金を投資などに有効活用できているかを含め、現状の配分が適切かを取締役会が不断に検証すべき旨を示しました。

「不断」は単発の点検ではありません。
一方で、経営環境や投資機会は変動します。
そのため、検証も継続的に繰り返す設計になります。

仕組み・分析(スリム化の方向性)

金融庁は、コードをプリンシプル化・スリム化する方向性も掲げました。
重要性の高い項目は原則に格上げします。

一方で、実務に定着した項目は削除するなど、全体の項目数をおよそ半減させる方針です。
さらに、重複する内容も整理するとしています。

仕組み・分析(経営資源配分の記述)

経営資源の配分については、複数の規定を統合・整理します。
そして、取締役会が成長の道筋を構築・提示する責務を負う旨を規定すると示しました。

また、成長投資や事業ポートフォリオの見直しなど、具体的な実行内容を説明すべきとしています。
さらに、現預金を投資などに有効活用できているかを含め、配分の適切性を不断に検証すると明記しました。

今後の影響

株式市場では、過剰な現預金がROE(株主資本利益率)を押し下げる一因との見方があります。
ROEは、株主資本に対してどれだけ利益を生んだかを示す指標です。

そのため、企業が成長投資を積極化し、投資機会が乏しい場合は適度に株主還元を行えば、資本効率や成長性の向上につながる可能性があります。
つまり、コーポレートガバナンス・コード改訂案は企業の投資行動に直接影響し得ます。

今後の影響(海外マネー流入の見立て)

モルガン・スタンレーMUFG証券の中沢翔株式ストラテジストは、改訂によるROE改善を見込みます。
そして、海外投資家からの資金流入につながると指摘しました。

同氏は、TOPIX500構成企業(金融除く)が現預金の半分を事業投資と還元に充てた場合、ROEが9.3%から12.1%へ上昇すると推計しました。
これはSTOXX欧州600指数の直近値12.5%に迫る水準です。

課題・展望

改訂案に対しては、産業界から慎重論も出ています。
企業側からは、経営資源の配分は自律的な経営判断に委ねるべきだとの意見が示されました。

また、現預金保有が一律に否定される風潮への警戒感もあります。
そのため、コーポレートガバナンス・コード改訂案がどこまで踏み込むかが焦点です。

課題・展望(経団連の立場)

経団連は、ガバナンス改革の進展への期待が高い一方、実質が伴わないとの指摘もあると整理しました。
さらに、研究開発投資や設備投資、人的資本投資など中長期の価値創造への投資の重要性を強調しました。

そして、過度な細則化を避け、大胆なスリム化・プリンシプル化を図るべきと主張しました。
また、コードは自律的経営を支える枠組みであると明記しました。

課題・展望(投資家の見方の分岐)

投資家の間でも見方は分かれています。
コムジェスト・アセットマネジメントのリチャード・ケイ氏は、現金削減を迫るように聞こえる点を懸念しました。

一方で、シュローダー・インベストメント・マネジメントの豊田一弘氏は、重要なのは成長投資の目利きだと述べました。
どこに資金を振り向けるかが、3年後の企業価値を決める大きな要因になるとしています。

課題・展望(政治の追い風)

企業の現預金活用は高市早苗首相が以前から主張してきたテーマです。
過去には内部留保の使途明示や現預金課税のアイデアにも言及しました。

こうした中、政治と規制の方向性が一致する構図が生まれています。
今後の有識者会議とパブリックコメントを経て、改訂案の最終形が注目されます。

ソース

ロイター
ブルームバーグ
金融庁資料
東京証券取引所
経団連意見書

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