COVID-19研究室由来説に新証拠なし Cell誌研究が示すパンデミック起源解析

新研究が示したパンデミック起源の分析ツール

パンデミックの起源をめぐる議論は続いています。
とくにCOVID-19が自然発生か研究室由来かは、現代科学で最も論争的なテーマの一つです。

こうした中、学術誌Cellに掲載された新研究が大きな注目を集めています。
この研究は、パンデミックウイルスが自然界から出現したのか、研究室から出現したのかを見分ける新しい分析手法を提示しました。

また、この研究はCOVID-19には研究室由来を示すシグナルが見つからなかったと報告しています。
しかし一方で、1977年のインフルエンザ流行には研究室関連の可能性を示す例外的な兆候が確認されたとされています。

つまり今回の研究は、過去のパンデミックの進化パターンを比較することで起源を検証する枠組みを提示した点で重要です。

研究の背景:パンデミック起源を巡る長年の論争

パンデミックウイルスの起源を巡る議論は長年続いてきました。
とくにCOVID-19の発生原因は国際社会でも大きな政治・科学問題となっています。

一般的に、ウイルスが人間社会に広がる場合は次の2つの可能性が議論されます。

・自然界の動物から人へ感染する「人獣共通感染」
・研究施設などからの事故や漏出

しかし実際には、どちらが起きたのかを客観的に証明する方法は限られていました。

そのため研究者たちは、ウイルスゲノム(遺伝情報)を用いて進化の痕跡を解析する方法を模索してきました。

新しいゲノム分析フレームワーク

今回の研究は、カリフォルニア大学サンディエゴ校医学部の進化生物学者
Joel Wertheim氏が主導しました。

研究チームは次のウイルスアウトブレイクを分析しました。

・インフルエンザA
・エボラウイルス
・マールブルグウイルス
・mpox(エムポックス、旧サル痘)
・SARS
・COVID-19

研究の中心は、ウイルスが人間に感染する直前の進化の変化です。

研究者たちは以下の手法を用いました。

・ウイルスゲノム全体を解析
・自然選択の強度の変化を測定
・突然変異の発生率を比較
・進化の転換点での選択圧を検出

この方法は系統発生学的フレームワークと呼ばれます。
簡単に言えば、ウイルスの進化の履歴を遺伝子から読み解く方法です。

実験室で育てられたウイルスの特徴

研究チームはまず、人為的に操作されたウイルスを分析しました。

具体的には次のようなウイルスです。

・細胞培養で増殖されたウイルス
・実験動物で継代培養されたウイルス

継代培養とは、ウイルスを何度も別の細胞や動物に移して増やす研究方法です。

この分析の結果、研究者たちは次の事実を確認しました。

実験室で選択されたウイルスには、自然感染とは異なる進化パターンが存在する

つまり、人工的な環境で進化した場合、ゲノムに特徴的なシグナルが残るということです。

この結果は、新しい分析手法の有効性を示す重要な検証となりました。

COVID-19に研究室由来の進化シグナルなし

研究チームはこの手法をSARS-CoV-2(新型コロナウイルス)に適用しました。

その結果、研究者たちは次の結論を示しました。

研究室での選択や長期的な人工培養を示す進化シグナルは検出されなかった

Wertheim氏は次のように述べています。

「この証拠の欠如は、自然な人獣共通感染イベントから予想されるものと一致している」

また彼は次のようにも指摘しました。

「これは実験室での操作を主張する理論に対する決定的な反証の一つとなる」

つまり、この研究ではCOVID-19が研究室で人工的に進化した証拠は見つからなかったとされています。

1977年の「ロシア風邪」が唯一の例外

しかし研究では、1つの明確な例外が確認されました。

それが1977年のH1N1インフルエンザです。
この流行は一般に「ロシア風邪」と呼ばれています。

このウイルスには次の特徴がありました。

・約20年間姿を消していた
・再出現した株がほぼ変化していない

通常、ウイルスは長期間の間に進化します。
しかしこのH1N1株は、20年の間ほぼ同じ遺伝子構造を維持していました。

研究者たちはこれを次のように説明しています。

自然進化では説明が困難なパターン

さらに、このウイルスは実験室で継代培養された株に一致する変化を示していました。

ワクチン研究の事故説

研究者たちは、この1977年の流行について次の可能性を指摘しました。

研究室株が流出した可能性

Wertheim氏は次のように述べています。

「H1N1パンデミックが実験室株によって引き起こされた可能性を裏付ける分子証拠だ」

さらに、ジョンズ・ホプキンス大学の生物安全保障学者
Gigi Gronvall氏も次のようにコメントしました。

「弱毒化ワクチンを作ろうとして失敗した証拠を示している可能性がある」

弱毒化ワクチンとは、ウイルスを弱めて免疫を作るタイプのワクチンです。

つまり1977年の流行は、ワクチン研究の過程で事故が起きた可能性が議論されています。

将来のパンデミック調査の基準に

今回の研究の最大の意義は、パンデミック起源を調べる基準を示した点です。

研究チームは次のように説明しています。

自然な人獣共通感染のゲノムパターンを定義した

これにより、将来のアウトブレイクが発生した場合に

・自然感染
・研究室関連事故

をより客観的に区別できる可能性があります。

ただしWertheim氏は次の点も強調しています。

「研究室事故が起きないという意味ではない」

しかし彼は続けて次のように述べました。

「もしウイルスが研究室で広く培養されていたなら、進化の記録に現れるはずだ」

COVID-19起源論争は継続

今回の研究が発表された背景には、COVID-19の起源論争があります。

2026年1月には、米国国立衛生研究所(NIH)の
Jay Bhattacharya所長が次の見解を示しました。

「ウイルスは研究室由来だと考えている」

一方で、世界保健機関(WHO)科学諮問グループは次の結論を示しています。

・自然感染が最も有力
・ただし研究室事故も排除できない
・データ不足が続いている

つまり現時点では、完全に決着した科学的結論は存在していません。

未知のウイルスが最大の脅威

最後にWertheim氏は重要な警告を述べています。

未知のウイルスが将来の最大のリスクである

彼は次のように語りました。

「私たちが知らないことが最大のリスクになる可能性があります」

さらに彼は次の点も強調しました。

「多くの動物ウイルスは事前の適応なしに人へ感染できる」

つまり、人類がまだ知らないウイルスが
将来のパンデミックを引き起こす可能性があるということです。

ソース

Cell(学術誌)
カリフォルニア大学サンディエゴ校公式発表
today.ucsd.edu
phys.org
The Independent
The New York Times
Daily Mail

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