中国のタングステン関連輸出が日本向けに停止し、日本の切削工具や素材関連企業が、代替調達とリサイクル強化を急いでいます。
タングステンは、超硬工具や耐熱部材などに使う重要鉱物です。
そのため、中国のタングステン輸出停止は、日本の製造業に直結する問題です。
今回の動きの背景には、中国の輸出管理強化があります。
また、世界的なタングステン価格の高騰も重なっています。
つまり、今回の問題は一時的な物流の乱れではありません。
中国のタングステン輸出停止をきっかけに、調達構造そのものの見直しが進んでいます。
対日輸出がゼロとなった異例の経緯
中国税関データによると、特定のタングステン製品の対日輸出は、2月から4月にかけてゼロとなりました。
これは、関連統計が始まった2015年以降で初めての事態です。
一方で、Nikkei Asiaによると、4月の日本の中国産タングステン輸入は、2025年の月平均比で50%減少しました。
つまり、数量面でも明確な落ち込みが確認されています。
この変化は突然起きたわけではありません。
2026年1月に中国が日本向けの軍民両用品目への輸出管理を強化し、2月にはタングステンを含むレアメタル関連の規制を拡大した流れの中で起きています。
輸出管理強化が示す構造変化
軍民両用品目とは、民間用途と軍事用途の両方に使える品目のことです。
こうした品目は、安全保障の観点から各国が厳しく管理します。
そのため、中国の規制強化は、単なる通関上の遅れとは意味が異なります。
中国のタングステン輸出停止は、政策変更が供給に直接影響した事例として受け止められています。
また、タングステンは切削工具だけでなく、航空宇宙や防衛分野でも重要です。
さらに、供給源が偏っているため、規制の影響が国際市場に波及しやすい特徴があります。
タングステン価格は2026年初めから急騰しました
タングステン市場では、2026年初めから価格が急騰しました。
実際に、供給不安が広がる中で、国際価格は記録的な高値圏に入りました。
Reutersによると、1月時点で中国のAPT価格は1,125~1,150ドル/mtuでした。
また、ロッテルダム価格は約1,100ドル/mtuに達しました。
APTは、パラタングステン酸アンモニウムの略です。
これは、タングステン製品の中間原料として広く使う代表的な指標価格です。
供給逼迫と需要増が高値を押し上げました
価格高騰の背景には、まず供給逼迫があります。
しかし、それだけではありません。
国防、航空宇宙、産業用タービン向けの需要も価格上昇を押し上げています。
つまり、供給が細る一方で、必要とする分野が広がっている構図です。
こうした中、中国のタングステン輸出停止は価格上昇圧力をさらに強めました。
市場では、今後も高値が続くとの見方が意識されています。
日本企業は中国依存の引き下げを急いでいます
日本企業は、中国依存を下げるために、米国や欧州などからのスクラップ調達を広げています。
スクラップ調達とは、使用済み材料や加工くずを回収し、再利用可能な原料として確保することです。
そのため、新規採掘資源への依存を抑えながら、供給を補う狙いがあります。
一方で、調達先の分散には時間も費用もかかります。
それでも、中国のタングステン輸出停止が続く中では、代替調達の拡大は避けにくい対応です。
日本企業は、従来の調達慣行を見直す局面に入っています。
米国産スクラップ輸入は大幅に増えました
3月の日本の米国産スクラップタングステン輸入は、前年同月比で約10倍に増えました。
4月はやや落ち着いたものの、なお前年水準を上回りました。
この動きは、企業が短期間で供給源を切り替え始めたことを示します。
実際に、中国のタングステン輸出停止への危機感が、輸入行動の変化として表れています。
また、スクラップは新規鉱山開発より立ち上がりが早い面があります。
しかし、量に限界があるため、万能の解決策ではありません。
住友電気工業と三菱マテリアルも動きを強めています
住友電気工業は新たなリサイクル工場の建設を進めています。
また、三菱マテリアルも日本と欧州で回収・再資源化能力を拡大する計画です。
再資源化とは、一度使った資源を回収し、再び原料として使える形に戻すことです。
つまり、供給不安への対応と資源効率の向上を同時に進める動きです。
こうした投資は、短期的な緊急対応にとどまりません。
中国のタングステン輸出停止を受けて、中長期の供給体制を作り直す流れが強まっています。
重要鉱物サプライチェーン全体に影響が広がっています
今回の供給不安は、日本だけの問題ではありません。
世界の重要鉱物サプライチェーン全体に影響しています。
サプライチェーンとは、原料の採掘から加工、輸送、販売までの供給網全体のことです。
重要鉱物は、この供給網が一部地域に集中しやすい特徴を持ちます。
そのため、中国の政策変更は、各国の製造業や資源政策に直結します。
また、価格だけでなく、在庫戦略や投資判断にも影響します。
中国の支配的地位が市場の不安定さを高めています
中国は、タングステンの採掘と加工で支配的な地位を持っています。
そのため、輸出管理の変化が国際価格に直結しやすい状況です。
一方で、需要は防衛や高性能製造分野で根強く続いています。
つまり、供給側の集中と需要側の堅さが、市場の不安定さを高めています。
こうした中、中国のタングステン輸出停止は、特定国への依存リスクを改めて浮き彫りにしました。
各国は、鉱物確保を経済問題だけでなく、安全保障問題としても見始めています。
欧州でも備蓄と供給網強化が議論されています
欧州では、備蓄や供給網の強化が議論されています。
重要鉱物をめぐる政策対応が広がっているためです。
備蓄とは、緊急時に備えて資源をあらかじめ蓄えることです。
また、供給網強化には、調達先の多角化やリサイクル能力の拡充も含まれます。
実際に、今回の問題は日本企業だけの経営課題ではありません。
中国のタングステン輸出停止は、国際的な資源戦略の再設計を促す材料になっています。
短期的な焦点はコスト上昇と在庫確保です
短期的には、調達コストの上昇と在庫確保の難しさが続く見通しです。
価格が高止まりする中で、必要量を確保する負担は重くなります。
また、供給が不安定になると、企業は通常より多くの在庫を持ちたくなります。
しかし、一斉に在庫を積み増せば、市場はさらに逼迫しやすくなります。
そのため、足元では価格と数量の両面で厳しい判断が続きます。
中国のタングステン輸出停止の影響は、すぐに解消する状況ではありません。
中期的には標準対応の見直しが進む可能性があります
中期的には、リサイクル、非中国調達、在庫積み増しが、日本企業の標準対応になる可能性があります。
これは一部企業の例外的対応ではなく、業界全体の基本戦略へ変わる可能性があります。
また、調達リスクを前提にした設備投資や契約見直しも進みそうです。
さらに、原料の回収や再資源化を組み込んだ循環型の運用も重要になります。
つまり、中国のタングステン輸出停止は、単なる一時対応では終わらない可能性があります。
企業の資源戦略そのものを変える契機になり得ます。
代替供給網の構築にはなお時間がかかります
ただし、代替供給網の構築には時間がかかります。
新しい調達先を確保しても、品質確認や物流体制の整備が必要です。
一方で、リサイクル設備の拡充にも投資と立ち上げ期間が必要です。
そのため、すぐに中国依存を大幅に下げることは簡単ではありません。
実際に、当面は不安定な供給環境が続くとみられます。
こうした中、日本企業はコスト、安定供給、資源循環の三つを同時に追う難しい局面に入っています。
中国のタングステン輸出停止が示した供給網再編の現実
今回の一連の動きは、資源調達が企業の競争力を左右する現実を改めて示しました。
とりわけ、中国のタングステン輸出停止は、単一供給源への依存リスクを具体的な形で露呈させました。
また、価格高騰、輸出管理、需要増加が同時に進んだことで、影響はより複雑になっています。
つまり、原料問題であると同時に、産業政策と安全保障の問題でもあります。
今後は、日本企業がどこまで非中国調達を広げられるかが焦点です。
さらに、リサイクル強化と在庫戦略をどう組み合わせるかも重要になります。
ソース
Nikkei Asia
毎日新聞英語版 / Kyodo
Business Chosun
Fujidie
Fastmarkets

