コロンビア大学が固形腫瘍を完全消滅させる免疫細胞を開発
コロンビア大学の研究チームが、マウスの固形腫瘍を完全消滅させた新しい免疫細胞療法を開発しました。
この成果は、2026年2月26日に学術誌「Science」に掲載されました。
従来のCAR-T細胞が苦戦してきた固形腫瘍に対し、腎臓がん、卵巣がん、膵臓がんの前臨床モデルで腫瘍の完全消滅を達成した点が重要です。
つまり、がん免疫療法の限界を突破する可能性が示されたのです。
背景 ― 固形腫瘍に立ちはだかる壁
がん免疫療法とは、免疫細胞を改変し、がんを攻撃させる治療法です。
代表例がCAR-T細胞療法です。
CAR-T療法はCD19というタンパク質を標的にします。
そのため血液がんでは劇的な成果を挙げました。
しかし、全がんの85%以上を占める固形腫瘍にはほとんど効果がありませんでした。
一方で、固形腫瘍では標的分子の発現が弱く不均一であることが障害となっていました。
詳細 ― 次世代受容体「HIT」の仕組み
研究チームは「HLA非依存性T細胞受容体」、すなわちHIT受容体を開発しました。
HLAとは免疫が抗原を認識するための分子です。
HIT受容体は、合成キメラ抗原受容体と天然T細胞受容体の要素を組み合わせました。
そのため、標準的なCAR-T細胞よりはるかに高い感度を実現しました。
研究を主導したのは、ソフィー・ハニナ准教授とミシェル・サデライン氏です。
サデライン氏はコロンビア細胞工学・治療イニシアチブのディレクターです。
見過ごされていた標的「CD70」
研究チームはCD70というタンパク質に着目しました。
CD70は多くの固形腫瘍に見られます。
しかし発現は不均一です。
そのため従来のCAR-T細胞では十分な効果が得られませんでした。
ハニナ氏の研究により、CD70の発現はスペクトラム状に存在することが判明しました。
つまり、CD70陰性に見える細胞も極めて微量のタンパク質を保持していたのです。
この微量発現はエピジェネティックなサイレンシングによって制御されます。
エピジェネティックとは遺伝子の働きを調整する仕組みです。
従来のCAR-T細胞は微量を検出できませんでした。
しかしCD70-HIT細胞は天然T細胞並みの感度を持ちます。
そのため、患者由来異種移植モデルであらゆる範囲の腫瘍細胞を認識し根絶しました。
ハニナ氏はプレスリリースでこう述べました。
「HIT細胞は次世代のCAR-T細胞です。標的分子がごくわずかしか存在しないがん細胞も検出できます。」
仕組み・分析 ― なぜ固形腫瘍を攻略できたのか
固形腫瘍攻略の鍵は「感度」です。
従来技術は一定量以上の標的分子が必要でした。
しかしHIT受容体は微量でも認識します。
そのため、がん細胞が“隠れる”余地を減らしました。
一方で、固形腫瘍には別の壁もあります。
改変細胞が腫瘍内部に浸潤し、生存し続ける必要があります。
ペンシルベニア大学のCarl June氏はFierce Biotechにこう語りました。
固形腫瘍では標的同定以外にも複数の障害が存在すると指摘しています。
今後の影響 ― 臨床応用への道
HIT受容体技術は2022年のNature Medicine誌で初報告されました。
現在は特許出願中です。
ハニナ氏とサデライン氏は、卵巣がん患者を対象に臨床試験を計画しています。
試験はコロンビア大学アーヴィング医療センターで実施予定です。
しかし第I相安全性試験の開始時期は資金調達次第です。
そのため、実用化にはまだ時間が必要です。
課題・展望 ― 規制と技術的ハードル
CD70は膠芽腫や膵臓腺がんを含む約20種類のがんで発現します。
そのため応用範囲は広いと考えられます。
しかし、FDAの現行規制では新技術ごとに個別試験が必要です。
そのため開発スピードは遅くなります。
サデライン氏はFierce Biotechに次のように述べました。
「問題を理解し始めれば、それを克服する解決策が見つかるはずです。」
こうした中、固形腫瘍に対する免疫療法の進展は大きな希望です。
実際に臨床で効果が確認されれば、がん治療の歴史が変わる可能性があります。
ソース
Science誌
Columbia University Irving Medical Center プレスリリース
MIT Technology Review
Fierce Biotech

