2次元磁性理論を初実証、テキサス大学オースティン校が発表
米国のテキサス大学オースティン校の物理学者が、1970年代に提唱された2次元磁性理論を実験で実証しました。
この理論が予測した特異な磁気相の完全な系列を、単一の物質で確認したのは今回が初めてです。
この成果は学術誌Nature Materialsに掲載されました。
今回の研究は、理論物理学と実在材料を結びつけた点で重要です。
さらに、将来の超小型磁気デバイス開発にもつながる可能性があります。
原子1層で起きた「時計磁性」
研究を率いたのは、物理学助教授エドアルド・バルディーニ氏です。
研究チームは、リン化三硫化ニッケル(NiPS₃)という物質の原子レベルの薄さのシートを用いました。
これは1原子層に近い極薄結晶です。
材料を約マイナス150〜マイナス130度まで冷却しました。
するとNiPS₃はBKT相に入りました。
BKT相とは、磁気モーメントが渦対を形成する状態です。
磁気モーメントとは、原子が持つ小さな磁石の性質を指します。
渦は一方が時計回り、もう一方が反時計回りです。
しかし互いに強く結合したまま安定します。
この現象は、ヴァディム・ベレジンスキー、そして2016年にノーベル物理学賞を受賞したJ・マイケル・コステリッツとデビッド・サウレスにちなんで名付けられました。
彼らはこの理論的記述でノーベル賞を受賞しました。
6状態時計秩序相への転移
さらに温度を下げると、材料は第2の相に入ります。
それが6状態時計秩序相です。
この相では磁気モーメントが、6つの対称方向のいずれかに「スナップ」します。
つまり、方位が6通りに固定される状態です。
これまで、BKT転移と6状態秩序相は個別には観測されていました。
しかし、単一材料で完全系列を確認した例はありませんでした。
今回の研究は、2次元6状態時計モデルを完全に実現しました。
これは理論モデルが現実に存在することを明確に示しています。
ナノスケールの渦が持つ意味
BKT相の渦は、極めて安定です。
横方向は数ナノメートルに限定されます。
ナノメートルとは10億分の1メートルです。
厚さは単一原子層のみです。
バルディーニ氏は、これらの渦が磁性制御の新手法を提供すると述べました。
さらに、二次元系のトポロジカル物理学への洞察をもたらすと強調しました。
トポロジカル物理学とは、形の連続的変形に依存しない性質を研究する分野です。
つまり、壊れにくい物理特性を扱います。
そのため、超小型かつ高安定な磁気デバイスへの応用が期待されます。
室温実現という次の挑戦
研究者らは、この発見が将来的に超小型磁気技術を生む可能性があると説明しました。
しかし、現在の現象は極低温でのみ確認されています。
そのため、実用化には課題があります。
今後は、同様の磁気相をより高温で安定化させる研究を進めます。
最終目標は室温での実現です。
もし室温で安定すれば、量子デバイスや低消費電力メモリ技術への応用が現実味を帯びます。
幅広い国際共同研究
本研究の共同筆頭著者はFrank Y. Gao氏です。
現在はウィスコンシン大学マディソン校の次期助教授です。
もう1人はDong Seob Kim氏です。
現在はコロンビア大学に所属しています。
さらに、マサチューセッツ工科大学、台湾の中央研究院、ユタ大学の研究者も参加しました。
研究チームは、NiPS₃以外にも未探索の相を持つ二次元磁性材料があると考えています。
つまり、今回の成果は出発点に過ぎません。
基礎物理学の深化と、ナノスケールデバイス設計の両面で、新たな方向性が開かれました。
ソース
bioengineer.org
Nature Materials

